Symposia

精神科遺伝における中間表現型
Intermediate phenotyping in psychiatric genetics

  精神分裂病における独立した認知障害における遺伝性の検討
Heritability estimates for independent domains of cognitive dysfunction in schizophrenia
Egan博士らは、精神分裂病患者にみられる認知障害は、精神分裂病を発症していない同胞においても認められ、その相対危険率が高いこと、さらに前頭前野の関わる認知機能にCOMT(catechol-O-methyl transferase)遺伝子が何らかの関連性を示すことを報告した。これらの結果から、精神分裂病のような多因子遺伝によるいわゆるcommon diseaseの遺伝研究において、認知機能障害は遺伝子と症状との間の中間的な表現型として、重要な候補となると結論付けている。

精神分裂病の遺伝子検索における中間的な生物学的表現型
Intermediate biological phenotypes in the search for schizophrenia gene
fMRIやMRスペクトロスコピーによって明らかにされてきた精神分裂病における脳機能に関するさまざまな知見、ことに情報処理の障害は、遺伝子と精神分裂病との間にある中間的な表現型であると考えられる。このことはCOMT(catechol-O-methyltransferase)遺伝子がfMRIによる所見に影響を与えていることからも明らかである。中間的な表現型の検討は、精神分裂病における遺伝子の研究にきわめて重要であると考えられる。

精神療法過程における神経生物学的相関
Neurobiological correlates of psychotherapeutic processes

  うつ病における対人関係療法の生物学的メカニズム
Biological mechanisms of interpersonal psychotherapy of depression
Aldenhoff博士は、対人関係療法が、うつ病の自己治癒のきっかけとなるかどうかについて検討を行った。研究では、細胞内カルシウムレベルはうつ病では減少し、症状の回復とともに元に戻るが、それは治療方法よりもむしろ治療に対する反応に左右されることが示唆されている。また、彼の研究グループは、様々な治療への反応過程における細胞内カルシウム濃度とcyclic AMP エレメント結合蛋白の変化を測定した。筆者らのデータは、うつ病の寛解は、薬物治療に対する脳の受動的な反応というよりも、むしろ薬物治療以外の他の治療がきっかけになったり、または自然に生じた能動的な過程である可能性もあることを示唆している。

精神分裂病の急性期エピソード:病態と治療
The acute episode in schizophrenia development: Mechanisms and treatment

  精神分裂病の発症と経過における病態生理学的メカニズム
Pathophysiologic Mechanisms in the Onset and Course of Schizophrenia
Lieberman博士は精神分裂病の病態生理学的アプローチとして、(1)神経発達の変化、(2)神経の可塑性の変化、(3)進行性の神経毒性、の3つの段階に分けて論じている。この3つの過程を用いて精神分裂病の病因と症状を解説し、治療的介入がこれらの病態生理学的メカニズムにどう作用しているか、なぜ元の状態に戻せないのか、説明を試みている。

成年期のADHDにおける新しい知見
New aspects of adult ADHD

  成人の注意欠陥多動性障害に関する新しい知見
New aspects of adult attention deficit hyperactivity disorder
小児のADHD(attention deficit hyperactivity disorder:注意欠陥多動性障害)を、大規模かつ長期にわたり盲検的に正常群と比較した研究が行われた。これによると、小児期のADHDは青年期から成人期にまで残存する可能性がある。今回の調査では、小児期にADHDと診断された患者は、青年期に行為傷害や物質乱用を発症したり、逮捕・収監されるなどの問題を生じる率が高いことが示された。成人した後もADHDが残存する率は少ないが、患者の数としては無視できないものであり、就学の機会が欠けていたり、おそらくは自殺・事故などで死に至る可能性が通常より高くなると考えられる。

陰性症状の生物学的基盤と精神薬理学的治療
Biological basis and psychopharmacological treatment of negative symptoms

  陰性症状の構造的、機能的基盤
Structural and Functional Basis of Negative Symptoms
精神分裂病の陰性症状は主に前頭葉症状に担うとFalkai博士は提言している。Falkai博士や他の研究グループによると、精神症状評価や脳神経構造、細胞研究のデータから、陰性症状の病態生理学において前頭葉の機能低下との関連が支持されるという。

陰性症状の生物学的基盤と非定型抗精神病薬の作用機序
The biological basis of negative symptoms and the mechanism of action of atypical antipsychotic drugs
Meltzer博士は脳の神経受容体における定型、非定型抗精神病薬の作用と、精神分裂病の陰性症状に抗精神病薬作用がどう寄与するかについて論じた。また、治療におけるドーパミン、セロトニン、コリン作動性受容体機能の重要性を述べ、前頭葉前野における選択的なドーパミン増加が重要である可能性についても触れた。

種々の精神障害における重大な自殺行動と自殺リスクに対する薬物療法
Pharmacologic management of acute suicidality and the suicide risk in various psychiatric disorders

  精神分裂病における自殺に対する治療
Treatment of suicide in schizophrenia
Meltzer博士は、clozapineで治療を受けている患者のデータから、非定型抗精神病薬は精神分裂病患者の自殺企図率と完遂率を減少させる可能性があると推測した。また博士はその他の非定型抗精神病薬による臨床試験でも同様な結果が得られるであろうと推察した。

大うつ病患者の自殺を制御・予防するための抗うつ薬の使用
The Use of Antidepressants to Handle and Prevent Suicidality in Patients with Major Depression
Kasper博士はうつ病患者における抗うつ薬の使用と自殺に関する文献についてレビューを行う。博士は先行研究の不備を指摘し、そして最近の新しい抗うつ薬が自殺率の減少と関連していることを示唆する研究結果について概括を行う。また博士は抑うつ症状の評価を男性と女性で分けて行うことの重要性について論じる。

アルツハイマー病における生物学的マーカーの変化について
The pursuit of biomarkers in Alzheimer's disease

  髄液中231リン酸化tauの測定の意義:アルツハイマー病診断および症状進行の評価の生物学的マーカー
Cerebrospinal Fluid Tau Protein phosphorylated at Threonine 231 is a potential biological marker for differential diagnosis and tracking of Alzheimer's disease progression
アルツハイマー病の主要な病理学的所見として、異常リン酸化tauが知られている。Hampel博士らのグループはその中で特にアミノ酸配列の231番目のthreonineが過剰にリン酸化されたp-tau231について注目し、アルツハイマー病診断における生物学的マーカーとなりうることを示した。さらに彼らは健常対照群、軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)群、アルツハイマー病群において、髄液中p-tau231を測定し、病期と関連したp-tau231の変化を示した。

軽度認知障害およびアルツハイマー病早期における神経画像診断について
Neuroimaging in mild cognitive impairment and early Alzheimer's disease
軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)は健常対照からアルツハイマー病への移行の途中段階の病態と考えられている。Petersen博士らのグループはMCIからアルツハイマー病へと進行する症例について注目し、定量的MRIおよびMRスペクトにおける海馬の萎縮、代謝の変化が病期進行と関連が深いことを示した。

遅発性ジスキネジアの分子学的考察
Tardive dyskinesia molecular insights

  定型・非定型抗精神病薬の、脳血流関門の鉄輸送に対する影響:酸化ストレスと遅発性 ジスキネジアとの関係
Effects of typical and atypical neuroleptics on BBB iron transport: Implications for oxidative stress in tardive dyskinesia
Youdim博士は慢性的な抗精神病薬の使用による、脳血流関門の鉄輸送の促進および脳への鉄の蓄積について、ラットとサルを用いて調べた。定型的抗精神病薬の使用と脳への鉄の蓄積は相関性があったが、非定型抗精神病薬であるclozapineの使用ではみられなかった。鉄の輸送と脳への蓄積は、長期間の定型的抗精神病薬の使用により起こる遅発性ジスキネジアと病理学的に関係している可能性がある。

感情障害における脳イメージング研究
Brain imaging investigations of mood disorders

  抑うつ、自傷を呈する患者におけるネガティブな認知傾向とセロトニン2受容体
Dysfunctional Attitudes and Serotonin-2 Receptors in Patients with Depression and Self-Harm
Meyer博士は健常対照群、大うつ病患者群、および自傷行為を繰り返す抑うつ患者群におけるネガティブな認知傾向の形成には、セロトニン2受容体が関与している可能性を報告した。

双極性障害の画像所見
Imaging Findings in Bipolar Disorder
Pearlson博士は精神病性の双極性障害患者のMRI所見と、非精神病性の双極性障害患者や分裂病患者、および双極性障害患者の家族で罹病していない者におけるMRI所見とを比較調査した研究を行った。この調査の結果、精神病性の双極性障害患者と精神分裂病患者のMRI画像の所見には共通点が見いだされた。

抗精神病薬50年の歴史から―将来への展望―
Fifty years with neuroleptics. What can be learned for the future?

  抗精神病薬に潜在するメカニズム
Theories about Mechanisms Underlying Antipsychotic Actions
Carlsson博士は薬の作用における神経伝達物質仮説について、歴史的に振り返って論じた。この科学的知見の進歩は、博士らが抗精神病薬の作用機序を調べていたときにもたらされたという。さらに、この研究分野の将来的な見通しについても示唆している。

抗精神病薬とその展望
Antipsychotics and the Future
Kane博士は、新規抗精神病薬を用いた場合でさえ精神分裂病の治療反応率が低いことを引用し、その不完全性について論じた。その後、精神分裂病の新しい薬物療法発展へのアプローチについて示唆した。

フリーラジカルと神経精神障害
Free radicals and neuropsychiatric disorders

  神経精神障害におけるカテコールエストロゲン:フリーラジカルの中和作用における有効性のエビデンス
Catecholestrogens in neuropsychiatric disorders: Evidence for an effective neutralization of free radicals
いくつかの実験条件で、カテコールエストロゲンである2-水酸化エストラジオールの神経細胞死の抑制に対する有効性が認められた。17-βエストラジオールと比較して、2-水酸化エストラジオールは細胞死と脂質の過酸化の抑制においてより大きな効果が認められた。これらの所見から、一次性の生理的なエストロゲンと比較して、カテコールエストロゲンはフリーラジカルによる神経毒性をより効果的に中和する作用を有することが示唆された。

精神分裂病研究における形態的ニューロイメージング
Structural neuroimaging in schizophrenia research

  精神分裂病における形態MR研究:総説と将来の展望
Structural Magnetic Resonance Studies of Schizophrenia: A Review and Some Thoughts for the Future
Bullmore博士は精神分裂病における形態的MRイメージング研究の現状について述べた。彼は関心領域を設定するアプローチがイメージング研究に及ぼす長所と欠点について述べる一方、コンピュータを用いた形態計測と呼ばれる手法を示し、この手法を用いて彼のグループが得た知見の一部を報告した。

精神分裂病研究の進歩:病因論から予後まで
From aetiology to outcome: Advances in schizophrenia

  脆弱性を持つ個体に精神病症状を生じさせるのは、何か?
What turns vulnerable individuals into psychotic individuals?
成年期に精神分裂病を発症する患者には、より早期に何らかの予測因子が現れている、という見解はほとんどの研究者が認めるところである。

精神分裂病は神経変性疾患か?
Is schizophrenia a neurodegenerative disorder?
精神分裂病の神経発達仮説は近年、生物学的精神医学において有力であった。しかし、Falkai博士はこの病気の発展には神経変性もそれに準じて重要だと考えている。神経変性は、臨床的にも神経病理学的にも画像データにおいても示唆されているという。

精神分裂病:脆弱性から発症に至るまで
Schizophrenia: From vulnerability to outcome

  ASPIS:精神病発症過程の神経認知と遺伝の関係における研究
The ASPIS: A Population Study on Neurocognitive and Genetic Correlations of Psychosis Process
Stefanis博士はギリシア軍人を対象としたアテネ精神病発症過程研究:the Athens Study of Psychotic Processes(ASPIS)での研究結果を発表した。精神分裂病の危険因子としてまだ研究が不十分である分裂病型人格について評価研究を行った。現在までの結果から、分裂型人格と神経精神的、遺伝的要素間における重要な関連が示唆されている。

精神病初回エピソードにおける治療:疾患に罹患する時機
Treatment of the First Episode Psychosis: An Opportunity to Affect the Course of Illness
Davidson博士は精神分裂病患者の精神病初回エピソードを定義、特定する困難さについて論じ、精神分裂病に進展する以前の青年期に精神障害が診断されていたか否かを検討した。
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