抗精神病薬に潜在するメカニズム
Theories about Mechanisms Underlying Antipsychotic Actions
Prof. Dr. Arvid Carlsson
Goteborg, Sweden, Presenter

1950年代に初めてクロルプロマジンが導入され、慢性的な精神病患者の行動は大きく改善された。当時はこの薬の作用機序に関する体系的な理論は存在しなかった。脳の働きのメカニズムは電気的現象として論じられ、化学的な説明は加えられなかった。

National Heart InstituteのBernard Brodieがセロトニンを測定する方法を開発した後、レセルピンを動物に投与してセロトニン濃度を測定するという実験が行われた。これによりセロトニンはレセルピンの投与後、枯渇させられることが発見された。

Ake-Nils Hillap博士はカテコールアミンの研究方法を開発した。Carlsson博士は彼とともにカテコールアミンに対するレセルピンの作用を研究した。そしてレセルピンがカテコールアミンも枯渇させることを見出した。しかし、動物実験において、L-dopaはこのレセルピンの作用をノルアドレナリン濃度を変えることなく逆転させた。こうした一連の実験により1958年にレセルピンの作用とドーパミンの関係が発見された。これは薬の効果による行動の変化が脳の化学物質と関係していることを初めて証明したものであった。当初この説は、末梢神経での化学物質の伝達を研究していた世界中の専門家から否定された。

Carlsson博士は、新しく免疫蛍光検査を導入した実験により、クロルプロマジンが脳のレセプターに影響を与えていることを示した。これが1965年の、精神分裂病の「ドーパミン仮説」の誕生であった。これはまた、神経伝達物質が盛んに研究される時代の、幕開けとなった。

ドーパミン仮説と神経伝達物質パラダイムに基づいて、数多くの効果的な抗精神病薬が開発された。より副作用の少ない薬を探求する過程で、他の神経伝達物質システムが発見され、非定型抗精神病薬の開発につながった。

彼は、将来的には、部分的ドーパミンアゴニストが治療法として登場するのではないかと考えている。すなわち、より選択的なドーパミン作用を提供する薬である。ドーパミンの過活動があるとき、脳ではアンタゴニズムが特に顕著であるため、部分的なアゴニストによる治療効果が期待されるのである。これは脳の正常な部位にはほとんど作用しない。したがって、こういう薬により、優れた治療効果と副作用の少なさが同時に期待できるだろう。

さらに、グルタミン酸のシステムの研究が、精神分裂病の新しい 治療薬の開発につながっていく可能性についても言及している。


レポーター:Elizabeth A. Osuch, M.D.
日本語翻訳・監修:昭和大学藤が丘病院精神神経科 山下さおり

 

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