ネガテイブな認知傾向とはネガテイブに考えやすい傾向を指し、マイナスの情報に偏り、プラスの情報を避けるというバイアスに反映される。この態度は大うつ病の患者や自傷行為をする人々に共通してみられる。
Meyer博士はまず、自殺を完遂した人のセロトニン2受容体に関する死後脳の研究と、抑うつ患者のセロトニン2受容体に関するin vivoの研究について述べた。彼はネガテイブな認知傾向に対するセロトニン放出ファクターの影響について論じ、さらにネガテイブな認知傾向に関するイメージングの実験についても言及した。イメージングの実験ではセロトニン結合能とうつ病エピソード、慢性的な自傷行為について評価が行われた。
自殺を完遂した人では、前頭前野におけるセロトニン2受容体の濃度が増加していた。また、抑うつ患者のイメージング研究でも、前頭前野のセロトニン2受容体に異常がみられた。
Meyer博士が詳細に報告した研究によると、セロトニン放出物質である d-fenfluramineを用いると、健常被験者に負のバイアスないし過程を減少させることが可能であるという仮説が検証された。この実験では、精神障害や薬物依存の既往や家族歴のない29人の被験者を対象に、d-fenfluramine投与の前後で、ネガテイブな認知傾向を彼の評価スケールで評定した。被験者はd-fenfluramine投与の1時間後にはネガテイブな認知傾向が大幅に減少していた。この結果から、Meyer博士は健常者の中ではセロトニンがネガテイブな認知傾向の調節因子として関与していると考えている。
また、別な研究で、Meyer博士のグループは[18F]-betoperone(セロトニン2受容体に選択的な放射性リガンド)を用いた機能的ニューロイメージングによって、27人の健常者、22人のうつ病患者、18人の慢性的自傷行為のある抑うつ患者を評価した。大うつ病患者では、両側前頭前野におけるbetoperone結合とネガテイブな認知傾向との間に強い相関を認めた。一方、うつで自傷をくり返す患者ではそのような強い相関はみられなかった。しかしながら、対照群に比べて、自傷の患者では前頭前野のセロトニン2結合能が20〜30%増加していた。
Meyer博士はセロトニン2受容体がネガテイブな認知傾向を調節すると結論している。彼はセロトニン結合能とネガテイブな認知傾向とによって、大うつ病における自傷と自殺のリスクを推測できるのではないかと想定している。