精神分裂病における自殺に対する治療
Treatment of suicide in schizophrenia
Dr. Herbert Y. Meltzer
Vanderbilt University School of Medicine,
Nashville, TN, USA, Presenter

精神分裂病患者の自殺率は正常コントロール群より8〜9倍高いと報告されてきた。しかし未だ定型抗精神病薬による治療が精神分裂病患者の自殺率を減少させることを示唆する根拠は示されてはいない。さらに、抗うつ薬や気分安定剤による治療によって自殺率が減少したという明らかな根拠さえない状態である。

それに比べて、非定型抗精神病薬であるclozapineが劇的に自殺未遂率と完遂率を減少させる可能性があることを報告した研究がある。Meltzer博士らは、治療抵抗性を示す精神分裂病患者のサンプルにおいて、clozapineによる2年間の治療の間に自殺未遂率が著しく減少したことを報告した。Clozapineによる2年間の治療期間の自殺未遂率は、治療前と比較して85%減少した。さらに、治療中にみられた自殺未遂のいくつかは、治療開始してほんの数ヵ月の間に起こっているが、これは、多分clozapineによる治療効果がまだ十分に発現していない時期であったからだと考えられる。

同様に、1997年のclozapineの投与を受けている米国の患者リストを使った分析では、自殺の推定率は75%に減少していた。当時そのリストには最大4年間治療を受けた患者50,000人が含まれていた。報告された38件の自殺のうちの約20%が治療開始1ヵ月の間に起こっていた。すべての死亡率を合わせても、clozapineによる治療を受けていた患者群の死亡率の方が治療を中断した患者群より83%低かった。

しかしながら、2001年5月のAmerican Journal of Psychiatryに掲載されたRosenheckらの論文では、clozapineによる治療を受けている1,415人の患者群と、その2倍の数のclozapineによる治療を受けていないマッチされたコントロール群との間に自殺完遂率の違いはなかったと報告している。

これに対して Meltzer博士は、この研究では、比較したコントロール群における自殺の危険度やうつ状態、治療抵抗性に関するマッチングが不十分であること、clozapineによる治療期間が6ヵ月以内である患者の割合が高いこと、自殺率を比較する期間におけるclozapineの治療継続の状況が明記されていないことなどを取りあげ、この研究が抱える重大な不備を指摘している。しかし、重大な不備があるものの、この研究では、少なくとも1年間clozapineによる治療を受けた2/3の患者においては自殺率の減少傾向を示しており(0.49%対 1.1%、 p = 0.07)、それはたとえ短い期間のclozapineによる治療であってもやはり自殺行動の減少に結びついていることを示唆していると考えられる。

その他の非定型抗精神病薬も同様に自殺率に影響を与えるかもしれない。製薬会社の調査ではオランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ziprasidoneは定型的な抗精神病薬に比して抗うつ効果も持っており、自殺率を減少させる可能性を示唆している。たとえば2,700人の患者を対象とした研究では、クエチアピンやリスペリドンによる治療期間中の自殺行動は、ハロペリドールによる治療期間中に比べ75〜80%減少しており、2つの非定型抗精神病薬の間には有意な効果の違いは認めなかったと報告している。

Meltzer博士は、今後更なる調査が必要ではあるものの、非定型抗精神病薬には精神分裂病患者の自殺のリスクを減少させる可能性があると考えている。


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:(株)東芝勤労福祉サービスセンター 田中克俊

 

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