抗精神病薬とその展望
Antipsychotics and the Future
Dr. John M. Kane
New York, NY, USA, Presenter

Kane博士は治療に反応しない精神分裂病患者に対してclozapineが最も効果を有する薬剤ではあるが、clozapineに反応しない精神分裂病患者もかなりの割合で存在することを指摘した。他の非定型抗精神病薬でも同様である。

Kane博士によると、新しい薬剤は副作用は少ないが、効果がないために患者の約1/3が治療を中断するという。新規非定型抗精神病薬を用いた場合、症状の改善度が20%未満の精神分裂病患者は30〜50%に達する。

Kane博士はさらに、2,000名の患者における新規抗精神病薬の臨床効果に対する平均効果サイズが0.25でしかないことを指摘した。これは、薬剤に対する反応がプラセボに比較して25%良好であるにすぎないことを意味する。効果サイズが小さいのは、臨床試験で難治性の患者を選択していることに由来している可能性もある。バイアスがかからない状態では、効果サイズがさらに高くなる可能性はある。比較対照として行った家族介入では、精神分裂病患者の再発減少における平均効果サイズは0.20であった。薬物療法は心理社会的介入に比較して、わずかながらに優れた効果を示すにすぎない可能性がある。

Kane博士は、医師も専門家以外の一般の人々も精神疾患についての重要な情報に疎遠であると考えている。例えば、初回精神病エピソードのあった患者が、どの程度の頻度で次回のエピソードを引き起こすか知らない精神科医はまだ多い。さらに、うつ病やパニック障害、精神分裂病でさえ、最適な治療のために向精神薬が必要であることを理解している家族はほとんどない。このような知識が欠如し、他の問題も重なって、効果的な治療や十分な薬物コンプライアンスを得ることが困難となっている。実際に、初回エピソードの精神分裂病患者の約16%は1年以内に、53.7%が2年以内に、82%が5年以内に再発するのである。

新規抗精神病薬に関して再発率が低いとはいえ、まだ高いままだとKane博士は指摘している。他の神経伝達システムに基づく薬剤開発をKane博士は勧め、また、患者に最も反応する可能性が高い薬剤を適合できるような薬理遺伝研究の必要性も説いた。


レポーター:Elizabeth A. Osuch, M.D.
日本語翻訳・監修:昭和大学医学部精神科 尾鷲登志美

 

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