定型・非定型抗精神病薬の、脳血流関門の鉄輸送に対する影響:酸化ストレスと遅発性 ジスキネジアとの関係
Effects of typical and atypical neuroleptics on BBB iron transport: Implications for oxidative stress in tardive dyskinesia
Prof. Moussa B. H. Youdim
Technion University, Haifa, Israel, Presenter

通常は血中の鉄が脳へ取り込まれる量はごくわずかである。定型的抗精神病薬への曝露により、脳血流関門での鉄輸送と脳への鉄の蓄積は高まるという。


脳の各部位への鉄の蓄積。サル、イヌ、ラットでの実験結果より。

Youdim博士はラットにクロルプロマジンと鉄を同時に投与し、脳での鉄輸送が高まることと、皮質ニューロン、淡蒼球、黒質に鉄が多く蓄積することを観察した。これはclozapineを投与した個体ではみられない現象であった。

同様に、ハロペリドールを投与したサルにおいても脳への鉄の蓄積が増えていた。鉄の蓄積はハロペリドールの投与量と投与期間に比例して増加していた。

クロルプロマジンやハロペリドールを投与したラットでは、肝臓の鉄が消費されていた。逆にclozapineを投与したラットでは肝臓への鉄の蓄積が増加した。

Youdim博士によると定型的抗精神病薬は肝臓で鉄と結合し、脂肪親和性の抗精神病薬―鉄結合体を形成して脳へ取り込まれ、ニューロン膜の鉄に対する透過性を増す。また、脳への鉄の蓄積はドーパミン受容体のアップレギュレーションを生じ、GABAニューロンの変性をきたし、結果として遅発性ジスキネジアという臨床上の問題を引き起こすのではないかという。

肝臓でフェリチンとして貯蔵されている鉄が、抗精神病薬とキレートを形成し脳へ運搬されるイメージ図。脳では鉄は淡蒼球(GB),黒質(SN)、線状体(ST)に蓄積される。

さらに脳で鉄輸送やホメオスタシスの変化が起こるのは、長期にわたる抗精神病薬の投与によるプロオキシダント効果によるのではないかと考察している。

今後はクロルプロマジンを投与したラットとサルにみられる脳への鉄の蓄積と、ドーパミン受容体の過感受性による行動学的特徴との関係について研究する方針であるという。今回得られた結果は、抗精神病薬使用による遅発性ジスキネジアの病理学的説明の一端をなすものと述べている。


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:昭和大学藤が丘病院精神神経科 山下さおり

 

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