中間的あるいは内的表現型と呼ばれるものは、精神分裂病のような遺伝的に複雑な形式に従う疾患において、遺伝要因に比較的直接関連した生物学的な形質と考えられている。精神分裂病では表面に現れる臨床症状が、遺伝的ではない要因によっても大きく影響されていることから、遺伝研究を行なう上では臨床症状ではなく中間的な表現型を用いることがより有効な手法であると考えられる。しかしながら、このような中間的な表現型を用いるためには次のようないくつかの前提条件が必要となる。
1)精神分裂病の脆弱性形成遺伝子が測定可能な表現型を示す。
2)中間的な表現型が臨床症状さらには診断のレベルとは同じではない。
3)遺伝形式が精神分裂病そのものより単純である。
4)中間的表現型に関連した遺伝子が、精神分裂病の危険性を構成する遺伝子である。
これらの前提条件を満たしていると考えられる精神分裂病の中間表現型の候補としては、人格特性、眼球運動、認知/神経生理学的障害、電気生理学的反応、脳の構造的、機能的、生化学的異常などがあげられる。これらの中間表現型のうちで、Weinberger博士はさまざまなタスクによるfMRIによって明らかになった脳の機能異常とCOMT遺伝子の機能的な多型性の所見を示し、中間表現型の特徴とその重要性を報告した。
まず手指の連続的な運動タスクによるfMRIにおける脳機能について、大脳運動領域の側方性が健常対照者と比較して、精神分裂病患者および発症していない精神分裂病患者の同胞で明らかな差異を示した。またナンバーバックワーキングメモリーのタスクによるfMRIでは、タスクの成績そのものは健常対照群と同胞群で差は見られなかったものの、ワーキングメモリーの機能に関連した情報処理過程において、遺伝的に精神分裂病の高危険群と考えられる同胞では皮質機能の異常が認められた。同胞群では精神分裂病で見られるような海馬NAA(N-acetyl asparate)の低下も認められ、その相対危険率はλs=5.9であった。このような中間的な表現型は、表現型を目標として疾患に関わる遺伝子の同定を行なう連鎖、相関研究や機能的なゲノミックスに用いることが可能であると考えられる。例えば前頭前野のドパミンレベルの調整に重要な役割を果たしているCOMT遺伝子では、その機能的な多型性による各遺伝子型によってワーキングメモリーに関するタスク中のfMRI所見が異なっている。
これらの結果からWeinberger博士は、精神分裂病の脆弱性形成遺伝子が、大脳皮質の情報処理に関連した遺伝子である可能性を指摘している。またワーキングメモリーによる認知機能過程に関連した中間表現型は、精神分裂病の脆弱性遺伝子を同定するための目標となる可能性があると述べている。今後中間表現型は、遺伝子の生物学的な作用を明らかにする上で極めて重要になると考えられる。