Murray博士は、成年期に精神分裂病を発症する危険因子について論じている。
早期にみられる危険因子のひとつは、産科的合併症の存在である。別々に行われた3つのメタアナリシス研究で、産科的合併症があると、後に精神分裂病に至る危険性が倍増することが示されている。遺伝的素因と出産時の低酸素症により脳での脆弱性が生じ、後の精神分裂病の素因を形成するのではないかという。
もうひとつの危険因子は、小児期の神経発達の異常である。英国で行われた大規模な出生コホート研究によると、運動機能の発達の遅れ、言語障害、孤独を好む行動パターン、認知機能の異常、社会への不安のある小児では後に精神分裂病を発症する可能性が高かった。
幼少期の精神病症状もまた、将来の精神分裂病の発症を示唆する因子である。Murray博士らは800人近くの11歳児に、「誰かに考えを読まれたことはありますか?」と「テレビやラジオからあなただけにメッセージを受け取ったことがありますか?」という質問を含む一連のアンケート調査を行った。「確かにある」または「あると思う」と答えた子供が26歳になるまでに精神分裂病を発症した率は、正常群の16倍であった。この調査では他に、
IQが低いことと運動機能の発達の遅れも精神分裂病発症の危険因子であることが示された。
非社交性も精神分裂病の危険因子である。18歳の男性50,000人を15年間追跡調査したスウェーデンの研究では、精神分裂病の発症は0.4%であった。発症した群では、小さいグループで行動したがり、友人が少なかったり、親しい関係をもつ相手がいないような非社交的な人物が多かった。
大麻の使用も精神分裂病の危険因子である。ある研究によると18歳で大麻を50回以上吸ったことがある者は、大麻を1回も吸っていない群に比べ精神分裂病を発症する率が6倍であった。
さらに都会に住むこともまた、危険因子とされる。都会のコペンハーゲンで出生した群はデンマークの地方で生まれた群よりも精神分裂病の発症率が4倍高かった。Archives of General Psychiatryに発表された研究でもこれと同様の結果が示され、都会の方が地方よりも精神分裂病の発症率が高く、それぞれ5.7%と2.4%であった。