Meltzer博士は精神分裂病の陰性症状の病理生理に次の3要素が含まれるという仮説を打ち出した:
1)前頭葉前野におけるドーパミン結合の減少
2)前頭葉前野におけるコリン作動性刺激の減少
3)グルタミン酸作動性錐体神経の機能異常
非定型抗精神病薬が(定型抗精神病薬に比較して)精神分裂病の陰性症状に優れた効用を示すのは、次の点に由来する可能性を示唆した:
1)前頭前野におけるドーパミンの増加
2)(直接、間接的な)コリン作動性刺激の増加
3)グルタミン酸作動性機能の調整
当初、多くの研究者達は、(ドーパミンD2受容体遮断を介する)より弱いドーパミン作動性活性が非定型抗精神病薬の作用をもたらすのに十分であると考えていた。近年のevidenceでこのことは否認され、コリン作動性、グルタミン酸作動性システムの重要性が強調されている。また、5-HT2A受容体の強力な遮断とD2受容体に対する弱い遮断の組み合わせが抗精神病薬の非定型性に必須であることを示唆するevidenceも見られる。
Meltzer博士はまず「D2受容体からの速やかな解離」仮説に焦点をあてた。以前、研究者達はD2受容体に対する低親和性と速やかな解離が非定型抗精神病薬を担う十分条件であると考えていた。しかしながら、D2受容体からの解離に対する力動的研究によると、非定型抗精神病薬であるsertindolやオランザピン、定型抗精神病薬であるハロペリドールともにD2受容体からの解離は低率である。非定型抗精神病薬であるclozapineとクエチアピンではD2受容体からの解離する率はさらに高い。このように、D2解離のみでは抗精神病薬における非定型性を十分に説明できない。
対照的に、非定型性は5-HT2Aに対する高親和性に加えてD2受容体に対する低親和性に由来するという5-HT2仮説がある。現在ある非定型抗精神病薬の90%がこの基準に合致する。この仮説に5-HT2C、5-HT6受容体親和性を加えると非定型の合致率は100%に及ぶ。さらに、5-HT/D2比は非定型抗精神病薬を正確に識別する。
Meltzer博士らは精神分裂病の陰性症状を研究し、その病理生理に前頭葉前野におけるドーパミン機能低下が不可欠であるという仮説を唱えた。動物モデルによると、非定型抗精神病薬によって、辺縁系におけるドーパミン放出が減少する一方、前頭葉前野皮質ではドーパミン放出が減少する。このことはハロペリドールの作用と対照的で、ハロペリドールでは前頭葉前野皮質におけるドーパミン放出はわずかに増加し、辺縁系においては激増する。5-HTアゴニストとアンタゴニストによる研究から、5-HT受容体が皮質と皮質下におけるドーパミン放出を調節し、グルタミン酸やGABAにも影響を及ぼすとMeltzer博士は結論付けている。これらの作用によって、精神分裂病の陽性症状と陰性症状双方ともに調節されるという。
Meltzer博士は、(定型抗精神病薬ではなく)非定型抗精神病薬が用量依存的に前頭葉前野皮質におけるアセチルコリンを増加させるというコリン作動性神経伝達の重要性についても強調した。陰性症状は前頭葉前野皮質でのコリン作動性機能が低下していることによって生じていると仮定し、本仮説はclozapineがムスカリン性M1とM2受容体の部分的アゴニストであることと矛盾しない点を指摘した。