うつ病における対人関係療法の生物学的メカニズム
Biological mechanisms of interpersonal psychotherapy of depression
Dr. Josef B. Aldenhoff
University of Kiel, Kiel, Germany, Presenter

一般的に大うつ病は多くの生物学的要素を持っているとされるが、対人関係療法は大うつ病に効果的であることが報告されている。しかしながら、対人関係療法に対する反応と、抗うつ薬の効果をもたらすと考えられているシナプスにおける過程を関連付ける研究はこれまで行われていない。Aldenhoff博士は、これまでの研究はシナプス部内での変化に焦点を当てすぎたために、脳での生物学的変化と対人関係療法の効果を関連付けることができなかったと考えている。彼は、神経生物学的変化によって対人関係療法による反応が引き起こされている可能性があるそれ以外の部位について述べている。

Aldenhoff博士は、トリプトファン(シナプス機構が抗うつ薬の反応に関与することを示しているセロトニンの前駆物質であるアミノ酸)の食事性の欠乏に関する考察の中で、1994年の研究でトリプトファン欠乏食を与えられたうつ病患者でも症状が再燃することはなかったことに注目した。この否定的な見解は、うつ病の病態生理に関与していると考えられているセロトニン神経伝達系の異常が、実はシナプス部以外の場所で起こっている可能性を意味しているのかもしれない。セロトニンの機能というのは、次々に神経化学的作用を引き起こすことになるいくつかのきっかけのひとつなのかもしれない。神経化学的な作用は、抗うつ薬の反応として現れてくる「自己治癒」の過程と一緒に「最終的な共通の情報伝達経路」に至る。他の報告では、主にセロトニン以外の他の神経伝達物質に作用する抗うつ薬を用いた場合にも類似した結果が示されている。

抗うつ薬の反応における最終的な共通の細胞内情報伝達機構は、細胞内カルシウム濃度に影響を与える。Aldenhoff博士のグループは、分裂促進剤の植物性血球凝集素を与えた場合の健康者と患者のリンパ球の細胞内カルシウム濃度の変化について調べた。健康者では、40%の細胞で細胞内カルシウム濃度の増大が観察されたが、うつ病群で増加が観察されたのは20%の細胞だけであった。引き続き、25名のうつ病患者と25名の健康対照者を対象とした研究が行われたが、8週間にわたる対人関係療法によって細胞内カルシウム濃度が正常化することが示された。また、重度の抑うつ症状を示す患者に薬物治療を行った場合にも同様の変化が生じた。

他の最終的な共通経路は、cyclic AMP 反応性エレメント結合蛋白などの転写因子によって部分的に調整されている遺伝子発現に影響を与えているかもしれない。Aldenhoff博士のグループは、イミプラミンやfluoxetineなどの抗うつ薬によって治療された患者群では、この結合蛋白の濃度が増大していることを認めた。また、この結合蛋白の濃度の増大は、8週間にわたる対人関係療法により症状が改善した群でも観察されたが、非改善群では蛋白濃度の変化は認められなかった。

Aldenhoff博士とその共同研究者らは、抗うつ薬による反応とcyclic AMP エレメント結合蛋白の濃度の変化との関係を明らかにするために、より長期間の研究が必要であると考えている。


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:(株)東芝勤労福祉サービスセンター 田中克俊

 

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