Falkai博士は精神分裂病の陰性症状は主に神経心理学的なものであり、情動や意欲とともに、注意や遂行機能、記憶の障害といった認知における問題を有していると指摘した。
精神分裂病症状を精神運動の貧困、解体、現実歪曲の各要素にクラスター分析を用いて細別化したLiddleによる研究がある。Liddleらは陰性症状と左側背、前頭葉前野皮質、頭頂葉上部皮質の脳血流とが負の相関を有することを見出した。この研究は、神経心理学的症状と皮質機能との関連を示唆するものである。
さらにこの関連を明示するため、Falkai博士らは精神分裂病患者の家族において左前頭葉機能を評価する神経心理学的検査を施行した。患者家族において、罹患の有無にかかわらず、左前頭葉機能を表す神経心理学的検査結果は陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の陰性症状得点と直接的な関係を示した。
神経画像研究においても、陰性症状と皮質機能との関連が指摘されている。200名以上の精神分裂病患者を対象としたCT検査では、陰性症状と皮質野における脳脊髄容積との正の関連が認められた(皮質体積異常は陽性症状と関連を示さなかった)。反対に、陰性症状を伴う精神分裂病患者では、陽性症状を伴う患者に比較し側頭葉における体積減少が少ないことが報告されている。
陰性症状と皮質機能との関連を示す根拠として、Falkai博士らは精神分裂病患者における皮質の細胞密度を調査し、Brodmann10野において細胞要素が減少し、Brodmann9野では細胞要素が増加していることを見出した。陰性症状を伴う精神分裂病患者の脳で脳回の減少が認められ、精神分裂病患者の1/3では新皮質の小膠細胞の活性化も認められていることから、Falkai博士はBrodmann9野と10野における精神分裂病に関連した細胞変化が特に、(1)生後1年間における脳回異常の形成、(2) (パーキンソン病など神経変性疾患で報告されているような)新皮質の小膠細胞活性化、という神経発達と発達過程に由来していると推測している。
Falkai博士は、神経発達過程と進行性の神経病理学的過程が精神分裂病における陰性症状形成に寄与していると考えている。