DOL APA2001 学会速報
Symposia
分裂病の危険因子と予防
Risk Factors for Schizophrenia and Prevention
分裂病は一般集団での頻度がほぼ1%と見積もられているありふれた病気である。他のありふれた病気と同じようにこの病気の発症は、数多くの遺伝的また環境的危険因子の積み重ねの結果である。この遺伝と環境の相互作用の特質が明らかになれば予防への道が拓けるので、これを明らかにするための研究努力が絶え間なく行われている。
分裂病の脳形態異常のリスクファクター
Risk Factors for the Brain Deviations Associated with Schizophrenia
分裂病に脳の形態異常があることが示されている。分裂病患者とその親族および対照について脳容量の計測を行った。その一部では産科的合併症の有無も調べた。これによって、分裂病脳の構造異常についての遺伝と環境の役割を検討できる。
神経発達に関与する遺伝子と分裂病のリスク
Neurodevelopmental Genes and Risk of Schizophrenia
脳画像所見や神経病理研究の結果から分裂病は神経発達の障害であると考えられている。分裂病の高い遺伝率を考えると神経発達に関与する遺伝子が病態発生に関与しているであろう。神経栄養因子の二つの遺伝子はその候補である。
精神分裂病における長期間の治療継続性を改善するための新たな方略
New Approaches to Improve Long-Term Treatment Adherence in Schizophrenia
分裂病における治療の継続性について
Treatment Adherence in Schizophrenia
分裂病患者の再発、再入院(家族の過大な負担や社会的なコストを伴う)の予防は治療をいかに継続するかにかかっている。現時点で治療継続性を増進するための最良の指針として、デポ剤の使用や古い定型抗精神病薬と比較して優れた耐用性をもつ非定型抗精神病薬の使用が推奨される。薬物療法に心理社会的な介入を併用することによって最も良い転帰が得られる。
分裂病の治療継続性を改善するための心理および薬理学的な方略
Psychological and Pharmacological Strategies for Improving Treatment Adherence in Schizophrenia
心理社会的および薬理学的な介入は、相互に強化しあいながら、分裂病の治療継続性の改善に寄与している。最近の研究によると、薬物療法に対する患者の主観的な反応、疾患に対する理解および副作用が、介在要因として特に注意を向ける必要があることが示唆されている。
双極性障害の治療における抗うつ剤の役割:その功罪
The Role of Antidepressants in the Treatment of Bipolar Disorder: Pro and Con
双極II型障害における抗うつ剤の効果と安全性
Efficacy and Safety of Antidepressants in Bipolar II Disorder
双極II型障害患者のうつ病エピソードに対する抗うつ剤の使用に際しては、躁転の危険性が懸念されるところである。Amsterdam博士 は、fluoxetineあるいはvenlafaxineは双極II型患者のうつ病治療においては、単剤で用いても安全かつ効果的な抗うつ剤であることを示唆する結果を提示した。
双極性障害における抗うつ剤の使用に伴う長期危険性
Long-Term Risks with the Use of Antidepressants in Bipolar Disorder
Ghaemi博士は、文献を展望した結果、抗うつ療法は双極I型障害の長期経過の増悪と関連すると結論した。この点に関するこれまでの報告は、三環系抗うつ剤の使用を基にしたものであり、SSRI 導入後は時代遅れのものとなっている可能性がある。Ghaemi博士は、双極性障害における抗うつ剤とラピッドサイクラーとの関連に関する従来の所見と一致する博士の最近の研究について論じた。博士のデータは三環系抗うつ剤に関する従来の所見をより新しい抗うつ剤(SSRI)にも拡大するものである。
臨床診療でのコリンエステラーゼ阻害薬の使用
The Use of Cholinesterase Inhibitors in Clinical Practice
アルツハイマー病の治療決定におけるEvidence-Based Medicineの適用
Evidence-Based Medicine as Applied to Treatment Decisions in Alzheimer's Disease
Evidence-based medicineは、臨床的な方針を決定する指針となるべきである。Schneider博士は、プラセボ反応の幅が広いため、コリンエステラーゼ阻害薬の効果の評価が困難であると指摘した。博士は、コリンエステラーゼ阻害薬の効果を評価する際、number-to-treat(治療必要数)及びnumber-to-harm(有害必要数)の統計値の使用を推奨した。
双極性障害:現在のガイドライン、臨床そして治療効果の研究
Bipolar Disorder: Current Guidelines, Practices and Effectiveness
双極性障害の系統的な治療強化プログラム (STEP-BD)研究デザインと対象の特徴
Systematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder (STEP-BD) Study Design and Sample Characteristics
Gray S. Sachs博士は、双極性障害の身体的および心理的治療の有効性を研究するために、NIMHの研究費によって行われる、双極性障害の系統的な治療強化プログラム(STEP-BD)の研究の全体像と、予備的な研究結果を発表した。
双極性障害のための薬物アルゴリズムのテキサス州での実施
The Texas Implementation of Medication Algorithms for Bipolar Disorder
Suppes博士 は、テキサス薬物アルゴリズムプロジェクト[Texas Medication Algorithm Project (TMAP)]について発表した。TMAPでは、双極性障害T型、あるいは分裂感情障害の双極型患者400人以上を対象に、系統的な、治療ガイドラインと患者・家族の教育プログラムの効果が調査され、このコントロールされたオープン研究の予備的結果を報告した。同時に、双極性障害のための薬物アルゴリズムのテキサス版(TIMA)と呼ばれる、テキサス州での公的な精神保健システムの中での重症な精神障害者のための新しい研究計画について発表した。
うつ病管理における治療手順(アルゴリズム)
Treatment Pathways (Algorithms) in Managing Depression
テキサス薬物アルゴリズムプロジェクト(TMAP): 大うつ病性障害の結果
Texas Medication Algorithm Project (TMAP): Results for Major Depressive Disorder
テキサス薬物アルゴリズムプロジェクト(Texas Medication Algorithm Project)は、主要な精神疾患治療に用いられる治療アルゴリズムを評価するために最初に行われた、大規模な有効性研究のひとつである。このアルゴリズムは大うつ病性障害患者の治療に12ヵ月間用いられた。対象は、このアルゴリズムとともに患者/家族教育パッケージを受けた患者;アルゴリズムを使わない通常の治療を受けた患者;通常の治療に加えて他の疾患に対するアルゴリズムが用いられた患者である。その結果、調査期間においてアルゴリズムを用いた患者群が有意な改善を示した。
アルゴリズムの実際:テキサス薬物アルゴリズムプロジェクト
Issues in Implementing Algorithms: Texas Medication Algorithm Project (TMAP) and Star D Experiences
Rush博士はテキサス薬物アルゴリズムプロジェクトを実践する際に生じる問題点−管理上、臨床上、手順、考え方についての問題点について論じ、単純な形式のアルゴリズムの実践が有効であると勧めている。
欠陥を伴う精神分裂病の最近の問題
Update on Deficit Schizophrenia
イタリア多施設における欠陥性精神分裂病の研究
The Italian Multicenter Study of Deficit Schizophrenia
Galderisi博士は欠陥性精神分裂病と診断された患者60人、年齢、性別をマッチし、 DSM-IVで精神分裂病(非欠陥性) と診断された患者60人、健康対照群120人を対象に研究を行った。欠陥性と非欠陥性精神分裂病の間には陰性症状、注意力低下、神経学的欠陥、病前の適応不良などで差がみられる。これにより両分裂病を区別できる可能性がある。
陰性症状の治療
The Treatment of Negative Symptoms
いくつかの異なった薬物治療が、精神分裂病の陰性症状を軽減することが示されてきた。しかしながら精神分裂病による障害を持つ患者に最終的にどれほど効果があるのかは確実でない。Goff博士は、ドパミンD
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受容体遮断薬、非定型抗精神病薬、N-methyl-D-asparate (NMDA) 受容体拮抗作用の精神分裂病における陰性症状に対する効果について述べている。
精神分裂病を抱えた患者のQOL: ヨーロッパ、アメリカにおける研究
Quality of Life in Patients with Schizophrenia: Research in Europe and the Americas
デイホスピタルで治療される精神分裂病患者のQOL
Quality of Life for Patients with Schizophrenia Treated in Day Hospitals
フランス版ランカシャーQOLプロフィールをデイホスピタルと外来クリニックで治療中の分裂病患者で評価した。全般評価尺度(Global Assessment Scale)、臨床全般印象尺度(Clinical Global Impression Scale)、陽性陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale)と日常態度調査(Daily Attitude Inventory)から得られたデータと比較した。フランス版評価ツールは地域特有性と全般的なQOLを正確に測ることができ、精神分裂病患者の評価に使用可能であることがわかった。
精神分裂病におけるQOL:145人の外来患者における2年間の追跡調査
Quality of Line in Schizophrenia: A Two-Year Follow-up Study of 145 Outpatients
精神分裂病を患う人々のQOLが、いくつかのスケールを用いて評価された。結果として、QOLと社会適応は疾患の重症度、陰性症状、罹病期間に強く影響されていた。非定型抗精神病薬によって治療された患者はその他の薬物治療を受けた患者に比べてより社会適応が良いと報告された。この影響は丸2年間持続した。
合併症を伴う精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia with Comorbid Disorders
精神分裂病において攻撃的な行動が持続している際の治療
Clinical Management of Persistent Aggressive Behavior in Schizophrenia
患者はしばしば、暴力や他人を怖がらせるような行動のために精神科に入院してくる。患者の中でも限られた数の者たちが暴力事件の大部分を起こすと考えられ、そういった患者を早期に発見して介入することは非常に重要である。Citrome博士らは暴力行為の急性期治療におけるロラゼパムについて論じており、多くの薬剤を含むより長期の治療についても述べている。
長期転帰:合併症の影響
Long-Term Outcome: Influence of Comorbid Conditions
精神分裂病の経過には様々な要因が影響する。その中には、性別(一般的には男性より女性の方が予後が良い)、年齢(発症年齢が高い方が長期経過の良好な場合が多い)といった要因が含まれる。また研究からは、再発すればするほど次の再発が起こりやすくなるといったことも示唆されている。他の精神疾患の合併も、予後をより悪化させている可能性がある。Schooler博士はアルコールや他の物質の乱用、あるいは他の精神障害の合併が長期転帰に及ぼす影響についてレビューしている。
初発精神病の未治療期間の短縮:精神病研究における治療と介入
Reducing Duration of Untreated First Psychosis: The Treatment and Intervention in Psychosis Study (TIPS)
早期発見と介入:理論的解釈
Early Detection and Intervention: Rationale
精神病の早期治療と予防に関する研究では、精神分裂病の早期発見を目指しており、それは早期発見・早期治療がより良好な長期的転帰をもつことを示唆するデータに合致している。そこでいくつかのコミュニティが取り上げられ、Rogalandは試験的なグループ、OsloとRoskildeは対照グループとされた。
初発精神病患者における認知機能の安定性
TIPS: Stability of Cognitive Functioning in Patients with First Episode Psychosis
精神病の早期治療と予防研究の一端として、初発精神分裂病関連障害を有する患者における認知機能検査を行った。各患者が、7項目の認知機能(ワーキングメモリー、言語習得、行動管理能力、衝動性、保続、フィンガータッピング、逆行マスキング)を検出する一連の検査を受けた。結果、顕著な安定性が示された。いずれの項目においても研究開始時と1年経過後の値に有意差はみられなかった。
神経性無食欲症に対する新しい治療戦略
New Treatment Strategies for Anorexia Nervosa
神経性無食欲症の発現にセロトニン系の障害が関与している可能性がある。SSRIは軸索終末からのセロトニン取り込みを阻害することにより、シナプス間隙のセロトニンレベルを増大させる。二重盲検プラセボ比較試験の結果、フルオキセチンは、体重が回復した神経性無食欲症の女性患者において、再発、強迫行為、抑うつ症状を有意に減少させることが示されている。
小児・思春期うつ病の臨床研究における進歩と小児期発症うつ病のリスクファクター: 理解と治療
Trends in Current Clinical Research on Child and Adolescent Major Depression
Risk Factors for Childhood-Onset Depression: Understanding and Treatment
Kovacs博士は小児・思春期の大うつ病性障害についての最新の知見を解説した。博士はまた、小児期大うつ病のリスクファクターを同定することにより、その後のパーソナリティ形成にかかわる問題に対する早期介入・予防が可能になるとの見方を示した。
小児・思春期うつ病の治療ガイドラインとアルゴリズム
Treatment Guidelines and Algorithms in Depressed Children and Adolescents
新規抗うつ薬が小児・思春期うつ病の治療に有効であることが示されている。Emslie博士は選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)を小児・思春期うつ病患者に使用することを論じ、臨床医の意思決定のガイドとなるアルゴリズムの概要を解説した。
注意欠陥多動性障害とアルコール・薬物乱用
Attention Deficit Hyperactivity Disorder and Alcohol or Drug Abuse
近年、注意欠陥多動性障害と物質乱用性障害の関連が指摘されている。注意欠陥多動性障害をもつ小児・成人に対して薬物療法を行うことにより、物質乱用の合併を減らすことができる。
食行動の異常に対する早期の影響
Early Influences on Disordered Eating
演者らは、小児のコホートを乳児期から8歳までフォローアップした研究を発表し、摂食障害をもつ母親が子供の食行動パターンに与える影響について論じた。第1の研究では、摂食障害をもつ母親の乳児は摂食障害をもたない母親の乳児と異なる哺乳パターンを呈した。第2の研究で、母親の食行動パターンが5歳児の食行動異常を予測することも示された。第3の研究によると、母親の食事やボディイメージに対する態度は、父親のそれより、8歳児の食行動異常に与える影響が大きかった。さらに、母親の態度は特に女児に対して影響を及ぼすことも明らかとなった。
妊娠・授乳中の向精神薬の使用: リスクの考慮
Psychotropic Use During Pregnancy and Lactation: Weighing the Risks
妊娠中であっても母体が精神疾患をまぬがれるとは限らない。そのため妊娠・授乳中に向精神薬の服用を続けるかについての判断がしばしば問われる。本セッションではこの意思決定における医師と母親の関心事についての検討がなされた。
過食性障害における食行動: 治療への示唆
Eating Behavior in Binge Eating Disorder: Implications for Treatment
Devlin博士は過食という現象を病因により、行動障害、うつ病性障害、神経性大食症に区別して論じた。治療はこれらの原因によって異なり、標準的な行動療法、認知行動療法、抗うつ薬などの組合せによって進められる。
摂食障害: 氏か育ちか
Eating Disorders: Genes or Jeans?
家族研究や双生児研究の成果から、神経性無食欲症に遺伝的要素が関連することが示されている。回復後の神経性無食欲症患者を対象としたニューロイメージング研究によると、脳のセロトニンレセプターに持続的な変化が生じていることが明らかとなった。
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