双極性障害の系統的な治療強化プログラム(STEP-BD)研究デザインと対象の特徴
Systematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder (STEP-BD) Study Design and Sample Characteristics
Gary S. Sachs M.D.
Department of Psychiatry, Massachusetts General Hospital,
Boston, Massachusetts, USA, Presenter

双極性障害の治療効果の研究が困難なのは、1) 双極性障害が多様なサブ・タイプを持ち、不規則な臨床経過をとり、多様な急性期の病像をとり、他の疾患との合併も多い複雑な状態であること、 2) 多様な治療があること、 3) 標準化された評価法がないこと、そして 4) 研究対象患者の選択の問題に起因する。 STEP-BD は、これらの問題点を克服し、双極性障害を治療するための、最も有効な身体的および心理的治療戦略を決定するために作られた。

STEP-BD は、幾つかの臨床同意ガイドラインに基づいて作成された。Sachs博士は、これらのガイドラインは、科学的な事実には基づいていないが、様々な双極性障害の病像のなかで臨床家がどのような治療を選ぶかを示し、双極性障害の治療のための薬物および心理社会的な介入の有効性を確かめるための研究を構成するためには非常に有効なものであるとしている。

STEP-BD は、 20の施設で5000 人の患者を対象とすることを目標としている。これらの施設は、一般的な治療モデルを使うことに同意している。 通常の臨床治験へ参加するためのクライテリアが選択的で制限的なのに反して、STEP-BD は、一般の臨床現場で治療されているような双極性障害の患者にアクセスできるように作られている。これらの広範な範囲の包括と最小限の除外項目、 そして無作為化された治療(randomized treatment pathway)と標準的治療(standard treatment pathway)を含んだ混成の研究計画(hybrid design)は、STEP-BDの結果を、最も一般化できるように意図されている。従って、この研究の結果は、より縦断的で、その統計的解析能力も通常の臨床治験と比べてより多くの双極性障害の患者を代表するものとなっている。

現在は、1205人の対象が、17の施設でSTEP-BD に関与している。これらの対象のうち809人が、 標準的治療(standard treatment pathway)を受けている。Sachs博士は、双極性障害の患者の新規のうつ状態がどのように治療されているかについての研究結果を示した。対象は、93人である。いずれの対象も、うつ状態の治療は、うつ状態の発症後21日以内に始められた。 44 人は、mood stabilizer のみで治療され、 49人は、mood stabilizer と抗うつ剤が同時に投与された。

結果は、mood stabilizer と抗うつ剤を同時に投与された群の26% 、mood stabilizer のみで治療された群の25% が、うつ状態から回復した。Mood stabilizer と抗うつ剤を同時に投与された群の18%、mood stabilizer のみで治療された群の11%が、躁状態に移行した。回復率については、2群間で統計学的な有意差は認められなかったが、 しかし、回復を示し出す時期については、mood stabilizer と抗うつ剤が同時に投与された群が、mood stabilizer のみで治療された群よりも有意に短かった (p<0.034)。

Sachs博士は、STEP-BD は、その研究が完了した時に、どのように双極性障害を治療するかについての多くの質問に答えてくれることになろうと述べた。


レポーター:日本医科大学精神医学教室講師(佐藤病院)西松能子
 


Copyright 2000-2013 by HESCO International, Ltd. All rights reserved.