神経発達に関与する遺伝子と分裂病のリスク
Neurodevelopmental Genes and Risk of Schizophrenia
Hiroshi Kunugi, M.D.
Department of Psychiatry, Teikyo University,
Tokyo, Japan, Presenter

家族研究、双生児研究、養子研究から分裂病の発症には遺伝が関与していると考えざるを得ない。分裂病には発達的な要素があるので、分裂病感受性をもたらす遺伝子は脳の発達に関与していると考えられる。分裂病感受性に関係する遺伝子はまた神経発達障害、とりわけ脳室拡大や側頭葉・海馬の容積減少にも関与しているはずである。

演者によると分裂病の病因としての神経発達障害仮説にしたがえば、神経栄養因子をコードしている遺伝子は注目すべき候補遺伝子である。神経栄養因子は中枢神経系の初期発達や成人の神経組織の可塑性を調節し、神経間の構造的統合を助けているからである。演者は神経栄養因子のうち脳由来神経栄養因子(BDNF)とニューロトロフィン3(NT-3)に注目した。

演者らの研究チームは、NT-3遺伝子の第一イントロンに2塩基繰り返し配列多型を見出した。関連研究を行なうと、分裂病と対照とでアリルの分布に有意差があった。すなわち患者でA3アリルが増加していた。それで追試が行われたが、一部の報告はこの結果を支持し他の報告は支持しなかった。

そこで演者はNT-3遺伝子が脳の発達に及ぼす影響を調べた。するとA3アリルを持っている分裂病では海馬容積が減少していたが、双極性障害では関連はみられなかった。そのため演者は、A3アリルだけでは海馬容積が減少しないが、分裂病の病態発生に特異的な何か別の危険因子と相互作用して海馬容積が減少するのであろう、と結論した。

BDNF遺伝子については、プロモーター領域の新しい多型であるC270Tとアルツハイマー病との関係を検討した。BDNFは機能性精神病よりも神経変性疾患に関係しているからである。その結果C270Tアリルの頻度が晩発性のアルツハイマー病で有意に増加していた。すなわち、この多型は晩発性のアルツハイマー病のリスクに関係している可能性を示した。

結論として演者は、NT-3やBDNFをコードしている遺伝子の多型は分裂病発症のリスクを増大させ、アルツハイマー病のような神経変性疾患への感受性をもたらす、またこれらの遺伝子は分裂病の脳の構造異常を部分的に説明する可能性がある、とした。


レポーター:帝京大学医学部精神科教授 南光進一郎
 


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