陰性症状の治療
The Treatment of Negative Symptoms
Donald C. Goff, M.D.
Harvard Medical School, Boston, Massachusetts,
USA, Presenter

Goff博士は、精神分裂病に伴う陰性症状に対する治療として、3つの主要な薬物療法の説明から発表をはじめた。まず最初はドパミンD2受容体遮断薬、次に非定型抗精神病薬、第3にグルタミン酸系の薬物である。

1960年代にNational Institute of Mental Healthによって行われた薬物投与試験では、フェノチアジン系薬剤による治療で陰性症状が軽減したと報告されている。Brierは、小規模のプラセボ対照試験を行い、フルフェナジンを投与された患者がプラセボの患者よりも有意に陰性症状の改善を示したと報告している。陽性症状に対する反応は、陰性症状に対する反応と相関を示さなかった。

これらの研究は精神科医の間で様々な議論を引き起こした。すなわち活動性の低下、社会的ひきこもり、無関心、感情鈍麻などの陰性症状が精神分裂病の一義的な症状であるとの議論がある一方で、陰性症状は妄想や幻覚などの陽性精神病症状から二次的に出現したものであるとする説もある。Goff博士によると、精神科医の間で十分なコンセンサスは依然として得られていない。

陰性症状は、きわめて少量の定型抗精神病薬によって改善する。しかしながら、陰性症状を改善するための投与量の幅 (therapeutic window) は狭く、錐体外路系の副作用が出現すると改善はみられなくなる。

クロザピンは、古典的な定型抗精神病薬治療に比較して陰性症状に対して有意な効果を示す。1988年に報告されたKaneの研究では、クロザピンとクロルプロマジン、ベンズトロピンを比較している。BPRSの情動平板化の下位スケールで陰性症状を評価したところ、Kaneらはクロザピンが陰性症状に対して顕著な効果を示し、その効果は6週間の治療期間では平衡に達しなかったと報告している。

次にGoff博士はグルタミン酸系全般について、さらにN-methyl-D-asparate (NMDA) 受容体をとりあげて述べている。NMDAアゴニストであるケタミンを健常者に投与すると、精神分裂病の症状に似た精神病症状が出現する。ハロペリドールによって安定している精神分裂病患者にケタミンを投与すると、症状は顕著な悪化を示し、これはクロザピンによって防ぐことができる。

Goff博士の推論によると、ハロペリドールによって陽性症状が安定している精神分裂病患者において、ケタミン誘発性精神病症状がクロザピンによって予防されることは、NMDA受容体の活動性が精神分裂病の陰性症状の病態生理に関与していることを示唆している。Goff博士はNMDAの神経伝達機構をさらに研究することによって臨床的に重要な所見が得られ、さらにNMDA拮抗剤が抗精神病薬開発の重要な候補となることを強調している。


レポーター:Kurt Ullman, RN
日本語翻訳・監修:大阪医科大学神経精神医学教室教授 米田 博
 


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