多くの研究で双極性患者における抗うつ剤による躁転やその他の短期効果について報告されてきたが、より重要な転帰の指標は、双極性障害の経過における抗うつ療法の長期におよぶ危険性であるとGhaemi博士は述べた。
Ghaemi博士によれば、一般的に双極性患者は、うつ状態の際に医師のもとを訪れるものであり、彼らの初期診断は単極性うつ病であるためにしばしば抗うつ剤によって治療されることになるという。うつ状態で受診する患者の既往の軽躁エピソードや躁病エピソードの診断は、病歴によって下されることになる。従って、病歴は詳細に聴取されねばならないし、それも患者だけでなく家族からも十分に話を聞く必要がある。つまり単極性うつ病という診断は、双極性うつ病の診断が除外された後初めて下されるべきものであるとGhaemi博士は述べた。
またGhaemi博士は、正確な診断が必ずしも適切な治療を保証するものではないことにも注意を促した。薬剤市場データによれば、双極性障害の確定診断が下されている患者に対して、抗うつ剤は気分安定薬の2倍も使用されていることが示されているという。ここで医師はそうした抗うつ剤の過剰とも言える使用を正当化できるのかという疑問が生じるが、彼はそうは思えないと述べた。
国立精神衛生研究所によって行われた研究では、双極性障害患者における治療抵抗性の原因は患者の25%において抗うつ剤の使用であったという。国立精神衛生研究所の別の研究によれば、50人のラピッドサイクラーの約50%は、おそらく抗うつ療法と関連したものであるという。Ghaemi博士によれば、抗うつ剤は気分安定薬の効果を無効とする気分不安定薬として作用するのではないかという。
Ghaemi博士は、双極性うつ病患者の治療決定の際のガイドラインとなるアルゴリズムの概略を示した。そのアルゴリズムは、第一に気分安定薬が選択され、次に非定型抗精神病薬、さらに非定型抗けいれん薬が選択されるというものである。しかし抗うつ剤がアルゴリズムから完全に除外されているわけではなく、paroxetine や bupropionは、双極性I型障害患者において躁転率が低いことが二重盲検統制試験によって確認されているため、アルゴリズムの中で取り上げられた。
Ghaemi博士は、最近の文献を展望した結果、双極性障害患者においてはたとえ近年の新しい抗うつ剤であってもおそらくは陰性の効果を持つことが示唆されると結論した。彼は抗うつ療法は双極I型患者には危険性を有しており、さらに詳細に検討されるべきものであると述べた。