DOL APA2002 学会速報




 
 
Medical Director
Bruce B. Dan, M.D.
日本語版総監修
上島国利
(昭和大学医学部
精神医学教室教授)


Frontiers of Science Lecture Series
  
新たなミレニアムにおける神経科学
Neuroscience in the New Millennium
いくつかの大学とNIH(国立衛生研究所)で研究に従事してきた高名な神経科学者であるFischbach博士は、20世紀における基礎的な研究の知見から神経科学の理解が進んでおり、それが今日、神経科学を臨床医学へと統合できる可能性に受け継がれていると述べた。博士は多くの点を説明するのに、パーキンソン病や精神分裂病といった神経変性疾患を例に挙げた。



他の精神疾患が共存(comorbid)する精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia With Comorbid Disorders
  
抑うつ状態が共存する精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia With Depressions
 
精神分裂病患者の抑うつ状態は、診断・治療が容易ではない。ここでは精神分裂病患者の抑うつ状態を正確に診断するための技法について論じている。また、この抑うつ状態の治療法も示されている。
  
不安障害が共存する精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia With Comorbid Anxiety Disorders
 
精神分裂病に強迫性障害(OCD)やパニック障害(PD)が共存している患者に対する治療の試みについての報告である。精神分裂病に不安障害が共存している患者は、綿密な臨床的評価を得て個別的アプローチが採られた場合、最も治療効果が上がることが示唆されている。治療にはOCDに対しては三環系抗うつ薬のクロミプラミンが、PDに対してはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の投与が含まれる。  
  
攻撃性が持続する精神分裂病の治療
Clinical Management of Persistent Aggressive Behavior in Schizophrenia
 
精神分裂病患者は精神疾患に罹患していない人に比べ暴力行為による問題を起こす可能性が5〜6倍高い。物質乱用が共存しているとその可能性はさらに高くなる。ここでは非定型抗精神病薬、気分安定薬、β遮断薬、SSRI(特異的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療について論じている。  
  
共存する病態と長期予後:限られる知見
Long-term Outcome and Comorbid Conditions: Why Do We Know So Little?
 
精神分裂病の長期予後は性別、発症年齢、未治療の期間や共存する精神疾患など様々な因子によって異なる。Schooler博士は不安障害やうつ病、物質使用、アルコール依存などの精神疾患の共存を見出すことの重要性に言及している。また、共存する疾患の治療に及ぼす影響について論じている。



双極スペクトラムは存在するか
Is There a Bipolar Spectrum
  
双極スペクトラムの妥当性
The Validity of the Bipolar Spectrum
 
Akiskal博士は、このシンポジウムのタイトルである「双極スペクトラムは存在するか」の問いに、"Yes"と明快に回答している。広範囲におよぶ双極スペクトラムの定義についてこれまでに発表された文献を用いて論じ、様々な型の双極II型障害(彼はこれらが一つの疾患スペクトラムに包括されると考えている)を同定し治療することの重要性について説明している。また、最近の遺伝連鎖研究から、双極II型障害と精神分裂病の一部に関わる遺伝子型の類似が示唆されていることにも言及している。  



気分障害の精神薬理学
Psychopharmacology of Mood Disorders
  
大うつ病性障害における疲労感と睡眠障害に対するmodafinil付加療法
Adjunct Modafinil for Fatigue and Wakefulness in MDD
 
Doghramji博士らは、大うつ病における疲労感と眠気における付加療法としてmodafinilを用いた小規模無作為二重盲検試験結果を報告した。年齢(平均45歳)、使用中の抗うつ薬(大部分がfluoxetine)、ベースラインの疲労感と眠気の得点は2群間で著変はなかった。付加6週間後、両症状において、modafinil群はプラセボ群に比較して改善を示したものの有意ではなかった。頭痛や不安などの副作用はmodafinil群で目立たなかった。  
  
更年期および閉経後女性における抗うつストラテジーとしてのエストラジオール短期使用
Short-Term Use of Estradiol as an Antidepressant Strategy in Perimenopausal and Postmenopausal Women
 
更年期および閉経後女性におけるうつ病緩和に経皮17-β-エストラジオールを用いた小規模(対象者20名)オープン試験結果の報告がなされた。治療反応において有意差が認められ、更年期女性では9名中6名でうつ症状の完全寛解を認めた一方、閉経後女性では11名中1名で反応を示したのみであった。興味深いことに、血管運動性症状の改善と気分における効果とは関係を示さなかった。



双極性障害の治療
Management of Bipolar Disorder
  
Topiramateによる急速交代型気分障害の治療
Topiramate Treatment of Rapid-Cycling Mood Disorder
 
急速交代型双極性障害に対するtopiramateの効果についての小規模臨床試験(対象者数は調査開始時60名、追跡調査終了時40名)の結果が報告された。治療によって、それまで増加していたYoung Mania尺度とハミルトン抑うつ尺度の得点は有意な改善を認めた。3年後、topiramate(しばしばlamotrigineと併用)は、双極性I型障害においては非定型抗精神病薬と、双極性II型障害においては抗うつ薬と併用されるなど、多くの患者は複数の薬剤による治療を受けていた。  



子どもの精神疾患への沈黙を破って:国のイニシアティブ、早期発見、
および新たな薬物療法について(Part1)
Breaking the Silence of Children's Mental Illness: National Initiatives, Early Detection, and New Pharmacotherapies, Part 1
  
子どもの精神疾患:従来の枠を踏み出して診断すること
Mental Illness in Children: Diagnosing Outside the Box
 
児童や思春期患者の診断には、大人と異なる以下の2つの特性を考慮する必要がある。@行動や症状が状況依存性である。A急速に変化する発達段階にあるため病像の 多様性が生じる(ADHDから気分調節の困難さを経て双極性障害BPDへの移行)。BPD患 者の子の研究で認められる深い病理、ADHDとBPD等の多様な重複診断を報告した。
  
児童精神医学における非定型抗精神病薬:十分に計画された試験での有用性について
Atypical Antipsychotics in Pediatric Psychiatry: Efficacy in Well-Designed Trials
 
様々な児童・思春期精神障害に対して、非定型抗精神病薬を用いての二重盲検比較試験が行われてきた。小児分裂病へのclozapine、行為障害や自閉症へのリスペリドン、トウレット障害へのziprasidoneの有用性が示す報告が紹介された。多くのオープン試験でも、非定型抗精神病薬の有効性と忍容性が総じて示されており、対照との比較試験での追認が不可欠である。



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