Cohen博士は約15年にわたりホルモン関連気分障害に関した仕事に従事してきた。背景として、更年期女性に抑うつ症状が明らかに多く存在することが提示された。しかし、新たに発症する大うつ病よりも反復性うつ病の方が多いようであった。
Cohen博士の研究グループは、この数年間で公表された2つの無作為二重盲検プラセボ比較試験の結果に基づき、更年期と閉経後のうつ病女性に対して経皮17-β-エストラジオールをオープン試験で施行した。
近年におけるエストラジオールが
抗うつストラテジーとして用いられた短期間臨床試験
・ | Schmidt/Rupert(NIMH):
エストラジオール50mcg/dayを更年期女性に対して6週間投与した。その結果4週目から試験最終時までに劇的な効果を見出した。 | ・ | Suarez
et al(Mass. General Hospital): 更年期女性にエストラジオールが12週間経皮投与された。早期から反応が認められ、試験終了のウォッシュアウト期間まで効果は持続した。
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エストラジオール群とプラセボ群における
抑うつ症状(MADRS得点)と更年期症状(BKMI得点)の比較
- | エストラジオール
(n=25) | プラセボ
(n=25) | P値 |
MADRS得点 | Baseline | 12週 |
16週
(washout後) |
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24.60 ± 6.69
8.60 ± 5.02
12.24 ± 5.31
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21.84 ± 4.43
16.34 ± 6.29
19.36 ± 5.12
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0.02
<0.01
<0.01
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BKMI 得点 | Baseline | 12週 |
16週
(washout後) |
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29.56 ± 7.94
10.60 ± 6.76
24.25 ± 8.50
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25.84 ± 9.94
19.08 ± 9.88
22.21 ± 10.51
|
0.14
<0.01
0.44
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MADRS-Montgomery-Asberg
Depression Rating Scale
BKMI- Blatt-Kupperman Menopausal Index
Source: Soares CN, et al. Arch Gen Psychiatry 2001;
58:529-534.
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本研究では経皮エストラジオール100mcgを用いてオープン試験で施行した。対象者を拡大して更年期だけでなく閉経後の女性も含み、両者のどちらに、よりホルモン療法が適しているのかを検討した。
研究方法と対象者背景
・ | オープン、4週間試験 | ・ | 女性20名(更年期9名、閉経後11名)、40〜60歳、全員FSH
>20 | ・ | 大うつ病11名、小うつ病6名、気分変調性障害3名 | ・ | ベースラインの平均CGI得点4.0(「中等症」に相当)
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試験から脱落した対象者はなく、エストラジオール療法の副作用として軽度の体重増加(平均1.5パウンド)以外は認められなかった。
全般的に、対象者の50%では抑うつ症状の、50%では血管運動性症状の著明な改善を呈した。先行研究と同様に、症状改善発現は早く、治療4週までに生じていた。
分析によると、血管運動性症状の改善は、抑うつ症状の変化とは独立して生じていた。
また、ホルモン療法に対する抑うつ症状の反応において、更年期と閉経後では著明な相違が認められた。更年期女性では9名中6名で症状がほとんど消失したのに対し、閉経後女性11名中で症状がほとんど消失したのは1名のみであった。
エストラジオール療法4週後のうつ病寛解率
- | |
閉経後
(n=11) |
p値 | 完全寛解
(平均MADRS得点<9)
| 6
(66%) | 1
(9.1%) | 0.017 |
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短期間の経皮エストラジオール療法は、うつ病の更年期女性に安全で有効であるが、閉経後の女性に対しての効果はあまり期待できないと結論付けられた。Cohen博士は、ホルモン療法がどういう女性に最も効果的であるか、さらなる研究によって明確になるまでは、エストラジオール療法をうつ状態の更年期女性に推奨することは時期尚早であると考えている。
レポーター:
Elizabeth Coolidge-Stolz, MD
日本語翻訳・監修:昭和大学医学部精神科 尾鷲登志美
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