DOL APA2002 学会速報




 
Medical Director
Bruce B. Dan, M.D.
日本語版総監修
上島国利
(昭和大学医学部
精神医学教室教授)


他の精神疾患が共存(comorbid)する精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia With Comorbid Disorders
  
抑うつ状態が共存する精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia With Depressions
 
精神分裂病患者の抑うつ状態は、診断・治療が容易ではない。ここでは精神分裂病患者の抑うつ状態を正確に診断するための技法について論じている。また、この抑うつ状態の治療法も示されている。
  
不安障害が共存する精神分裂病の治療
Management of Schizophrenia With Comorbid Anxiety Disorders
 
精神分裂病に強迫性障害(OCD)やパニック障害(PD)が共存している患者に対する治療の試みについての報告である。精神分裂病に不安障害が共存している患者は、綿密な臨床的評価を得て個別的アプローチが採られた場合、最も治療効果が上がることが示唆されている。治療にはOCDに対しては三環系抗うつ薬のクロミプラミンが、PDに対してはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の投与が含まれる。  
  
攻撃性が持続する精神分裂病の治療
Clinical Management of Persistent Aggressive Behavior in Schizophrenia
 
精神分裂病患者は精神疾患に罹患していない人に比べ暴力行為による問題を起こす可能性が5〜6倍高い。物質乱用が共存しているとその可能性はさらに高くなる。ここでは非定型抗精神病薬、気分安定薬、β遮断薬、SSRI(特異的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療について論じている。  
  
共存する病態と長期予後:限られる知見
Long-term Outcome and Comorbid Conditions: Why Do We Know So Little?
 
精神分裂病の長期予後は性別、発症年齢、未治療の期間や共存する精神疾患など様々な因子によって異なる。Schooler博士は不安障害やうつ病、物質使用、アルコール依存などの精神疾患の共存を見出すことの重要性に言及している。また、共存する疾患の治療に及ぼす影響について論じている。


双極スペクトラムは存在するか
Is There a Bipolar Spectrum?
  
双極スペクトラムの妥当性
The Validity of the Bipolar Spectrum
 
Akiskal博士は、このシンポジウムのタイトルである「双極スペクトラムは存在するか」の問いに、"Yes"と明快に回答している。広範囲におよぶ双極スペクトラムの定義についてこれまでに発表された文献を用いて論じ、様々な型の双極II型障害(彼はこれらが一つの疾患スペクトラムに包括されると考えている)を同定し治療することの重要性について説明している。また、最近の遺伝連鎖研究から、双極II型障害と精神分裂病の一部に関わる遺伝子型の類似が示唆されていることにも言及している。  


双極性障害に対する薬物併用療法:理論的根拠と議論
Combination Therapy for Bipolar Disorder: Rationales and Controversies
  
双極性障害の治療における薬物併用療法の理論的根拠
The Rationale for Combining Medications in the Management of Bipolar Disorder
 
双極性障害の病態は複雑であり、薬物併用療法により一層効果的な治療ができることが考えられる。薬物併用療法は相乗的な薬理作用を生じ得る。例えば、臨床的・基礎的研究によれば、リチウムと抗けいれん薬であるdivalproexはその有用な効果において相乗的に作用する。リチウムとdivalproexの併用療法を受けている症例では、それぞれ単剤の場合と比べて服薬コンプライアンスがより高いと報告されている。双極性障害の他の治療法についても論じられる。
  
治療抵抗性双極性障害における多重薬物併用療法
Complex Combination Therapy in Refractory Bipolar Illness
 
双極性障害患者における急性期の症状改善を達成するためには、現在ではより多くの薬物を必要としている。これは病相の頻回交代化および双極性障害の発病年齢の低下によるかもしれない。本障害の治療に現在使用可能な薬物(単剤療法と併用療法)を概観した。Post博士は頻回交代型の症例の治療に関する博士自身の方針を呈示した。  
  
双極性うつ病:気分安定薬単剤か抗うつ薬併用増強療法か?
Bipolar Depression: Mood Stabilizers Alone, or Antidepressant Augmentation?
 
双極性障害患者においては、抗うつ薬はしばしば躁病や病相の頻回化を誘発する。双極性障害患者に対する治療指針の一つとして、複数の気分安定薬の使用を推奨する。自殺傾向のある症例は常に抗うつ薬により治療し、中でも選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を第一選択とする。2ヵ月間の寛解状態の後、抗うつ薬を漸減・中止する。2種類の漸減法に失敗した場合は抗うつ薬を維持する。双極性障害の長期的治療の指針となるアルゴリズムを提示する。 


アルコール症のnaltrexone治療:この10年の臨床における進歩
Naltrexone Treatment of Alcoholism: A Decade of Clinical Progress
  
アルコール症の治療におけるnaltrexoneの有効性
Efficacy of Naltrexone in the Treatment of Alcoholism
 
アルコール症の治療にnaltrexoneを使用することについて概説した。Naltrexone治療を受けているアルコール症患者では、アルコールへの渇望が少なく、飲酒することも少なく、再発も少ないとされる。また、飲酒してもその心的報酬が少なく、ハイな気分になれないという。アルコールへの渇望が強い患者や家族歴にアルコール症をもつ患者はnaltrexoneに最もよく反応する。
  
アルコール依存に対するnaltrexone治療の効果を高めるには
Optimizing Naltrexone Treatment of Alcohol Dependence
 
Naltrexoneはアルコールへの渇望を減少させる安全で効果的な治療である。アルコール渇望度が高い、あるいはアルコール症の家族歴をもつ患者では、naltrexoneを服用すると、臨床面でより良い結果が得られる。患者が服薬コンプライアンスを保てるか否かがnaltrexone治療の成否に大きく関与する。服薬コンプライアンスを保ち、治療を維持する方略としては、一般的な社会心理的介入やBRENDAと呼ばれる動機付けの強化法などが挙げられる。  


目次へ