DOL ACC 2002 学会速報


心不全

Heart Failure

 
 
Medical Director
Bruce B. Dan, M.D.
日本語版監修
篠山重威(浜松労災病院院長)




Heart Failure Trials I
 
 

重症心不全と高度の駆出率低下を有する患者における主要臨床イベントに対するカルベジロールの効果:COPERNICUS試験の結果

  Effect of Carvedilol on Major Clinical Events in Patients with Severe Heart Failure and an Extremely Depressed Ejection Fraction: Results of the COPERNICUS Study

  β遮断薬に関するこの大規模試験のデータのポストホック解析によって、左室駆出率が高度に低下している患者の予後が検討された。心機能障害が進行したこのサブグループの患者においても試験全体でみられたものと同じ死亡率の改善が明らかにされた。有効性の程度は機能障害の程度がより軽度の患者でみられたものと変わりはなかった。
 

Heart Failure Trials and Outcomes
 
 

慢性心不全でレニン・アンジオテンシン系抑制の程度によってβ遮断薬に対する反応が異なるか? COPERNICUS試験の結果

  Does the Degree of Interference with the Renin-Angiotensin System Influence the Response to β-Blockade in Chronic Heart Failure? Results of the COPERNICUS Study
  この報告は心不全におけるカルベジロールに関する大規模な臨床試験のデータを解析したものである。レニン・アンジオテンシン系を抑制する薬物を高、中、低、いずれかの用量で投与されている患者にβ遮断薬を併用しても臨床的エンドポイント、脱落率、あるいは有害事象に差はみられなかった。したがって、レニン・アンジオテンシン系の抑制の程度によってβ遮断薬に対する反応が変わるものではないことが示唆される。
 

Late-Breaking Clinical Trials II
 
  強心薬の静脈内投与を受けている患者におけるLVAD治療の生存率改善効果
  Major Survival Benefit of LVAD Seen for Patients on Intravenous Inotropic Therapy

 
画期的なREMATCH試験では、末期心不全患者でLVADによる治療が内科的治療に対して2年生存率を46%減少させたことが示された。今回発表された新しいデータは、ベースラインで強心薬の静脈内投与を必要とする重症患者においても機械的循環補助が重大な改善をもたらすことを示すものである。ベースラインにおける障害がそれほど高度でない患者では有効性は著明ではない。
 
  B型ナトリウム利尿ペプチドによる心不全緊急診断法に関する前向き盲検試験:正しく呼吸が行われない(Breathing Not Properly [BNP])国際協同試験
  A Prospective, Blinded Trial of B-Type Natriuretic Peptide as a Diagnostic Test for the Emergency Diagnosis of Heart Failure: The Breathing Not Properly (BNP) Multinational Study
  この大規模試験ではB型ナトリウム利尿ペプチドが呼吸困難を訴えて救急外来を受診した患者の症状が心不全に起因するものかどうかを予測する上で有用であることが示された。この神経体液因子を測定することによって、これまで行われてきた診断法では果たせなかった今後の見通しが確実になる。さらに、単回の測定だけでも臨床的誤診を74%減少させた。
 

Initial Work-Up and Therapy for Newly Diagnosed Heart Failure
 
  非侵襲的臨床評価:診断と予後の判定
  Clinical and Noninvasive Evaluation: Diagnosis and Prognosis

 
心不全の診断に関して、病歴、身体所見、および臨床検査を中心にした系統的なアプローチが提示された。完全な病歴を知るためには、心不全の主要症状とこれまでの既往症を聞き取る必要がある。完全な身体所見をつかむには、静脈圧、肺と心臓の機能を検討しなければならない。心不全の診断に必要な検査は、心電図、胸部レントゲン、心エコー法、運動負荷試験、およびB型ナトリウム利尿ペプチドのレベルの測定などである。
 
  最適薬物治療の選択
  Selection of Optimal Medical Therapy

  収縮機能障害による心不全に対する最適な薬物治療を選択するための系統的アプローチの紹介である。このアプローチは利尿薬によって容積負荷とうっ血症状を改善することから始まる。まずうっ血症状が消失すると、ジギタリスによる治療を開始する。状態が安定化した時点ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬が第1に選ぶべき治療薬である。β遮断薬の追加、アルドステロン拮抗薬、アミオダロン、その他の治療法も考慮の対象となる。
 

Heart Failure Trials II
 
 

重症心不全と収縮期血圧の低下を伴う患者におけるカルベジロールの有効性と安全性:COPERNICUS試験の結果

  Efficacy and Safety of Carvedilol in Patients with Severe Chronic Heart Failure and Low Systolic Blood Pressure: Results of the COPERNICUS Study

  COPERNICUSのデータの解析から、治療前の血圧値によって重症心不全患者におけるカルベジロールの有効性と安全性が変わるものではないことが示された。以前にβ遮断薬メトプロロールとビソプロロールに関して行われた心不全生存試験では収縮期血圧<100mmHgの患者が除外されているので、収縮期血圧が低い患者にβ遮断薬(特にカルベジロールのように血管拡張作用を有する薬物)の使用は積極的に行われない可能性がある。
 

Quality of Care and Assessment of Heart Failure
 
 

COHEREにおける地域医師によるカルベジロールの導入:U.S.カルベジロール試験および慰労的プロトコール試験(Compassionate Use Protocols)との比較

  Carvedilol Initiation by Community Physicians in COHERE: Comparison with U.S. Carvedilol Trials and Compassionate Use Protocols
  地域医療の実践の場でカルベジロールが投与された患者と複数のカルベジロール臨床試験に登録された心不全患者のデータの比較が行われた。地域における患者は高齢者と女性の比率が高く、臨床試験の患者に比して軽症であった。用量設定の速度や最終投与量にも差がみられた。しかしながら、COHEREに登録されたほとんどの患者では治療が継続された。これらの結果から、地域医療において、カルベジロール治療の導入と維持はうまくいっていることが示唆される。
 
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