慢性心不全でレニン・アンジオテンシン系抑制の程度によってβ遮断薬に対する反応が異なるか? COPERNICUS試験の結果
Does the Degree of Interference with the Renin-Angiotensin System Influence the Response to β-Blockade in Chronic Heart Failure? Results of the COPERNICUS Study

Paul Mohacsi
University Hospital Bern
Bern, Switzerland


心不全患者でアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)などのレニン・アンジオテンシンを抑制する薬物が投与されている患者にβ遮断薬が併用されることは多い。しかし、慢性心不全でこれらの薬物が特定の用量以上に投与されている場合にβ遮断薬に対する反応が異なる可能性に関しては全く不明である。

最近終了したカルベジロールの累積生存率に対する前向き無作為試験(CarvedilOl ProspEctive RaNdomIzed CUmulative Survival [COPERNICUS])では2,289例の心不全患者が登録され、無作為にカルベジロールとプラセボ治療に割り付けられた。これらの患者でほとんどの者がACE阻害薬かARBの投与を受けていた。この試験はカルベジロールが死亡のリスクの有意な減少をもたらすことが判明した時点で早期に中止された。

心不全においてレニン・アンジオテンシン系を抑制する薬物がβ遮断薬に対する反応に及ぼす影響を検討するために、COPERNICUS試験のデータが解析された。この解析はACE阻害薬またはARBの高、中、低用量投与群と無投与群で特定の安全性と予後改善効果を評価するものであった。

高、中、および低用量群は試験中に患者が服用している量を基準に決められた。

 
高用量
(n = 686)
中用量
(n = 855)
低用量
(n = 673)
エナラプリル
20〜100

10〜15

1.25〜7.5
カプトプリル
75〜400
27.5〜62.5

6.25〜25

リシノプリル
20〜80
15

1.25〜7.5

ペリンドプリル
6〜8
4

1〜2

ロサルタン
75〜200
50
6.25〜25
Ramipril
7.5〜40
5
0.06〜2.5
キナプリル
40〜80
15〜20
5〜10
Fosinopril
30〜60
15〜20
5〜10
ベナゼプリル
40〜80
20〜30
5〜10
シラザプリル
7.5〜75
5
0.5〜2.5
トランドラプリル
4
1〜2
0.5
バルサルタン
4
1〜2
0.5
Irbesartan
300
150
75
カンデサルタン
16〜150
8
< 8

カルベジロールのプラセボに対するハザード比から、ACE阻害薬もARBも種々の臨床的エンドポイントに影響を与えるものではないことが示唆された。主要な臨床イベントのリスクは用量に関係なく同程度に低下した。差がないことは統計的にも明らかであった。

ACE阻害薬とARBの用量に基づく予後リスクの指標(ハザード比)
 

高用量
(n = 686)

中用量
(n = 855)
低用量
(n = 673)
無投与
(n = 65)
総死亡率
0.70
0.65
0.63
0.51
死亡または入院
0.76
0.81
0.75
0.68
死亡または心血管病による入院
0.67
0.76
0.78
0.70
死亡または心不全による入院
0.69
0.68
0.72
0.77

すべての4サブグループにおいて治療の忍容性は良好であった。永久的な治療中止率はACE阻害薬とARBの用量とは無関係にプラセボ群に比してカルベジロール群で低かった。

さらに、有害事象の頻度も高、中、低用量群で変わりなかった。重症有害事象発生頻度はカルベジロール群で37.0〜42.5%、プラセボ群で43.8〜47.9%であった。

この新しいデータによって、カルベジロール治療を開始する前にレニン・アンジオテンシン系を抑制する薬物を高用量投与する必要がないことが示唆される。

さらに、カルベジロールは生命予後を延長する。したがって、レニン・アンジオテンシン系を抑制する薬物の低用量が投与されている患者ではACE阻害薬やARBの投与量を増加させるよりもカルベジロールによる治療の併用を始めるのがよいといえる。