心不全臨床試験の結果は必ずしも地域医療の現場に広く普及されてはいない。その理由の1つには、臨床試験で登録された患者が地域医療で遭遇する患者と異なるものであることによる。臨床試験の患者は通常より若年で、男性が多い。また、合併症も少なく、治療薬の服用を忘れずに続ける傾向が大である。
もう1つの要因は主治医にある。臨床試験の主治医は専門家が多い。彼らは地域医療の医師より看護師やコーディネーターの助けを受けやすい立場にある。
地域医療の現場における心不全治療でカルベジロールに関する経験がいま数多く登録されてきている。この登録はCoreg Heart
Failure Registry(Coreg心不全登録)(COHERE)と呼ばれるもので、633名の医師が参加して、4,273例の心不全患者を非選択的に登録した。
COHERE登録のデータに協力したのは循環器専門医と地域医療で仕事をしている循環器専門医以外の医師であった。専任の教職員や心不全の専門家の経験はこのデータの中に含まれていない。
臨床試験と地域医療との差を明らかにするために、COHERE登録と1,094例のカルベジロール無作為臨床試験における患者および2,981例のオープンラベルのカルベジロールcompassionate
use trial(慰労的プロトコール試験)でみられた患者のデータの比較が行われた。
予後に関するデータはいまだ完全に解析されていないが、興味ある差がいくつか認められた。
COHERE登録では臨床試験の患者に比して、高齢者と女性が多くみられた。さらに、COHERE登録では左室駆出率が高値でNYHA(New
York Heart Association)心機能分類のクラスが低かった。
COHEREとカルベジロール臨床試験における患者背景
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COHERE
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慰労的
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臨床試験
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年齢 |
66 ± 13
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60 ± 13
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58 ± 12
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女性 |
35%
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25%
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23%
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NYHA機能分類クラスIII/IV |
38%
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62%
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47%
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平均左室駆出率(LVEF) |
31 ± 12%
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NA
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23 ± 7%
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Compassionate useまたは臨床試験とCOHEREとの比較はすべて有意で
あった (P < 0.001)
NA=データなし
また、COHERE登録患者ではジゴキシン、利尿薬、ACE阻害薬による治療も少ない傾向があった。
COHERE登録患者では用量設定がより時間をかけて行われ、目標維持量の25〜50mg/1日2回投与が達成できた患者は臨床試験の患者より少なかった。一方、COHEREではほとんどの患者でカルベジロール治療が継続できた。
COHERE用量設定経験
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カルベジロール用量設定経験
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用量設定の経験
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COHERE
(n = 3,861)
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臨床試験
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慰労的
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循環器専門医の患者
(n = 2,869)
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非専門医の患者
(n = 992)
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用量設定に要した日数 |
75 ± 46
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NA
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54 ± 32*
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75 ± 45
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75 ± 48
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25〜50mg bidに増量できた患者 |
45%
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85%*
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93%*
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50%
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30%**
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カルベジロール中止例 |
9%
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12%
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7%*
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10%
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6%**
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* P < 0.001 対 COHERE
** P < 0.001
NA=データなし
予期されるとおり、COHERE登録に参加した医師は循環器専門医でない場合が多い。また、大学との関係があったり、病院に勤務している医師も少なかった。
この登録データは地域医療における幅広い医師の活動を示すものである。将来の観測的研究においてはβ遮断薬による心不全治療に関する臨床試験と地域医療における経験との差を考慮に入れて行う必要がある。
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