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高齢期のビンジドリンキング(むちゃ飲み)およびその他の飲酒パターンにより認知機能低下リスクが上昇する可能性がある [2012-07-31] |
Late-life binge drinking and other patterns of alcohol use may increase risk of cognitive decline |
少量から中等量の飲酒は認知機能低下の軽減を含め健康に利益をもたらすと考えられている。しかし、2012年Alzheimer's Association International Conference®において発表された2つのスタディの結果、高齢期の中等度の飲酒および若年期の大量飲酒さらに高齢期のビンジドリンキング(過剰飲酒)により認知機能低下リスクが上昇することが示唆された。1つ目のトライアルでは、スタディ開始時期よりも過去により多く飲酒したと回答した女性は認知機能障害を発症するリスクが30%高かった。ベースライン時または中間地点で中等度の飲酒量だった者の認知機能障害リスクは非飲酒者と同等であった;しかし、スタディ後期に中等量の飲酒をしていた者は認知機能低下を発症する確率が60%高かった。スタディ期間中に非飲酒者から飲酒者になった場合は、認知機能障害リスクが200%上昇した。もう1つのスタディでは、大量の一時的な飲酒("ビンジドリンキング")が月1回あると報告した者は認知機能の最大低下率が62%高く、記憶力では最大低下率が27%高かった。ビンジドリンキングが月2回以上あると報告した者は認知機能の最大低下率が147%高く、記憶力の最大低下率は149%高かった。 |
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睡眠不足と寝過ぎは認知機能低下と関連がある [2012-07-31] |
Too little and too much sleep are associated with lower cognition |
2012年Alzheimer's Association International Conference®で報告されたスタディ結果から、睡眠の質および量と認知機能低下との関連が示唆された。参加者15,000人(70歳以上)のスタディにおいて、1日の睡眠時間が5時間以下、および9時間以上の者は1日の睡眠時間が7時間の者と比べ、平均の認知機能が低かった。不足または過剰な睡眠は認知機能を2歳分低下させた。中年期から高齢期にかけての睡眠時間変化の影響を評価したところ、1日の睡眠時間が2時間以上変化した女性では、もとの睡眠時間に関係なく睡眠時間変化のなかった女性よりも認知機能が低かった。睡眠時間とアルツハイマー病の早期バイオマーカーとの関連を調査するために、科学者らはアルツハイマー病性脳変化を示唆する血漿中の蛋白比(βアミロイド 42/40比)を測定した。その結果、1日の睡眠時間が7時間以上か7時間未満であることにより、7時間の場合と比較しAβ42/40比は低下した。 |
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睡眠障害および概日リズムの崩壊は認知機能障害のリスク上昇と関連がある [2012-07-31] |
Sleep disorders and circadian disruptions associated with increased risk of cognitive impairment |
2012年Alzheimer's Association International Conference®で報告されたスタディの結果、睡眠障害と概日リズムの崩壊が認知機能障害のリスク上昇と関連することが示された。研究者らは、ある大規模多施設スタディに組み入れられた高齢女性(75歳以上)1,300人あまりを評価して、客観的に計測した睡眠の質(アクティグラフおよびポリソムノグラフィーを用いて計測)と認知機能上の有害転帰との関連を調査した。5年にわたり、認知機能と臨床的な認知状態(正常、軽度認知障害[MCI]、および認知症)を評価し、睡眠時無呼吸、夜間覚醒、総睡眠時間、および概日リズムのずれなどの睡眠に関する客観的指標計測値を得た。睡眠呼吸障害を有する者はそれを有していない者よりも5年間にMCIを発症する確率が2倍以上であった。概日リズムの崩壊(頂点位相の遅延)した女性はMCI発症リスクが高かった。夜間覚醒時間の長い女性はそうでない女性よりも認知機能全体および言語の流暢性の検査の点数が低かった。これらの結果から睡眠呼吸障害と認知症との関連は睡眠パターンの崩れではなく睡眠時無呼吸による低酸素が関係していることを示している、と筆者らは確信している。 |
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免疫グロブリン静注療法トライアルを3年間に延長したことでアルツハイマー病が長期間安定した [2012-07-31] |
Long-term stabilization of Alzheimer's disease in 3-year extension of intravenous immunoglobulin trial |
免疫グロブリン静注投与(IVIG)により認知機能、記憶力、日常機能および気分などの低下を含むアルツハイマー病の症状が長期間(3年間)安定化した、と2012年Alzheimer's Association International Conference®で報告された。軽度から中等度のアルツハイマー病に対する第2相プラセボコントロールスタディの有効な成績が既に報告されている。IVIGの長期効果を評価するために全ての参加者は、さらに18か月間単回標準用量(0.4mg/kgを2週ごと)のIVIG治療を受けた。プラセボを投与された5人と様々な用量のIVIGを投与された11人の、もともと組み入れられていた計16人は36か月間を通して治療を受けた。0.4mg/kgのIVIGを2週ごとに36か月間施行された者(4人)の予後が最も良好であり、3年後のエンドポイントの時点で認知機能、記憶力、日常機能および気分などの複数の標準項目において低下を認めなかった。IVIGを36か月間施行された11人の患者群において思考能力、行動および日常機能において好ましい結果が得られた。最初はプラセボを投与され、その後IVIGに変更された者(5人)は、プラセボを投与されていた期間は悪化が認められたが一定用量のIVIG投与期間中は悪化速度が低下した。 |
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新たな研究の結果、軽度認知機能障害と孤独および死亡リスク上昇とが関連付けられた [2012-07-31] |
New research links mild cognitive impairment to increased isolation and risk of death |
2012年Alzheimer's Association International Conference®で発表された2つのスタディの結果、軽度認知機能障害(MCI)と健康上の予後不良―孤独および死亡の増加―との関連に関するエビデンスが得られた。1つ目のスタディでは、アルツハイマー病リスク上昇に関連するAPOE-e4遺伝子について検査を受けた733人(>70歳)を追跡した。ベースライン時、認知症を有する者24人(3.3%)、健忘性MCIを有する者76人(10.3%)、非健忘性MCIを有する者65人(8.9%)であった。参加者は平均5年間(最長16年間)追跡された。認知機能の正常な者と比較し、認知症を有する者の死亡リスクは3.26倍高かった;健忘性MCIを有する者の死亡リスクは2.17倍高かった。APOE-4アレルを有すること、合併疾患/障害数の多いこと、および、うつレベルが高いことなども死亡リスク上昇と関連があった。148人(平均年齢84.2歳でMCI28人を含む)を対象とした他のスタディでは、MCIを有する者は時間とともに症状が進行するにつれて屋外で過ごす時間が徐々に減少していた。この研究結果から、認知症発症の早期徴候は活動性低下や社会全般からの離脱である可能性があることが示唆された。 |
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歩行解析の結果、歩行スピードや歩幅の変動性は認知機能障害と同時進行する可能性のあることが示された [2012-07-31] |
Gait analysis shows that stride speed and variability may track with cognitive impairment |
歩行障害―歩行ペースの低下や歩幅の変動性が大きいなど―は認知機能低下を示唆する可能性があるとの新たな研究結果が2012年Alzheimer's Association's International Conference®で報告された。研究者らは、1,153人の参加者(平均年齢77歳)を認知機能診断(認知機能正常、軽度認知機能障害[MCI]またはアルツハイマー病)に基づきグループ分けし、定量的歩行解析を用いて追跡した。アルツハイマー病を有する人々はさらに軽度、中等度、または重度に分類された。歩き方は約30,000の統合圧力センサーの付いた10m長の配電回路を用いて計測された。全ての参加者は1回の"通常の"歩行および2回の異なる"二重の課題"―通常通りに歩きながら大声で逆に数えたり動物の名前を言ったりする―を行った。認知機能低下が進行すると歩き方は緩徐になり、変わりやすくなった。全ての群において、二重課題歩行中の歩行速度は通常歩行のみの速度よりも低下した。アルツハイマー型痴呆を有する者ではMCIの者よりも歩行速度は遅く、MCIの者は認知機能正常者よりも歩行速度が遅かった。他のスタディでは、歩調、歩行速度および歩長振幅の低い参加者は認知機能全般、記憶および実行機能が有意により大きく低下することが示された。 |
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妊娠中に抗精神病薬を使用する女性は妊娠糖尿病のリスクが高い [2012-07-24] |
Women who use antipsychotic drugs during pregnancy have increased risk of gestational diabetes |
妊娠中の抗精神病薬使用に関して調査したスタディの結果、これらの薬物が妊娠糖尿病リスクを上昇させる可能性があることが示唆されたと Archives of General Psychiatry 7月号に報告された。研究者らは、地域住民を対象としたスタディのためのSwedish national health registersを用いた。このスタディでは、妊娠中の抗精神病薬使用が胎児成長に及ぼす影響についても調査した。出産した女性らは調剤された処方別に、(1)抗精神病薬オランザピンおよび/またはクロザピン(169人)、(2)他の抗精神病薬(338人)、または(3)抗精神病薬の使用なし(357,696人)にグループ分けされた。妊娠糖尿病は、抗精神病薬を使用した母親において(グループ1で4.1%、グループ2で4.4%)妊婦全体(1.7%)に比べ2倍多かった。この結果から、オランザピンおよび/またはクロザピンによるリスク上昇の度合いは同等であり、統計学的に有意ではないことが示された。抗精神病薬を内服している女性は妊娠期間に比して小さい子供を出産するリスクも高かったが、母親の因子で補正した結果、そのリスクは統計学的に有意ではなかった。オランザピンおよび/またはクロザピン曝露後に妊娠期間に比して出生体重や出生児身長が高くなるリスクが上昇することはなかったが、頭囲のリスクは上昇した。 |
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心臓手術後患者のせん妄は長期にわたる認知機能低下と関連がある [2012-07-24] |
Postoperative delirium in cardiac surgery patients associated with prolonged cognitive impairment |
New England Journal of Medicineに掲載された研究により、心臓手術後患者のせん妄と長期にわたる認知機能障害との関連が確立された。研究者らは冠動脈バイパス術(CABG)または心臓弁置換術を施行された60〜90歳の患者225人を手術後1年間追跡した。心臓手術後にせん妄を発症した患者103人(全体の46%)は発症しなかった患者に比べ、術直後の認知機能低下が有意に大であった。彼らは術前の認知機能まで回復するのにも、著しく時間がかかった。例えば、せん妄のなかった患者では手術の5日後に半数が術前の認知機能レベルに回復していたのに対し、せん妄を発症した患者では20%未満であった;術後6か月の時点では、せん妄を発症しなかった患者の4分の3以上において認知機能が回復していたが、せん妄を発症した患者ではその割合は60%に過ぎなかった。せん妄を発症しなかった患者では認知機能が術後1か月で術前レベルに達し安定したのに対し、せん妄を発症した患者では術後6か月間改善の途上にあった。この結果は、せん妄の発見の重要性および予防的介入の可能性があることを明らかにしている。 |
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小児期の困苦はうつおよび慢性炎症のリスクを増加させる [2012-07-17] |
Childhood adversity increases risk for depression and chronic inflammation |
Biological Psychiatryに掲載された新たなスタディの結果、若年少女における心的外傷と血中のC反応性蛋白およびインターロイキン6の2つの炎症マーカーとが関連付けられた。研究者らは、健康ではあるがうつ発症リスクの高い思春期女性の大集団を組み入れた。彼女らは2.5年間追跡され、問診とC反応性蛋白およびインターロイキン6を計測するための採血を施行された。また、小児期の困苦への曝露も評価された。その結果、小児早期の困苦被害を受けた者がうつ状態になるとそのうつは炎症反応を伴うことが示された。さらに、困苦歴を有する者においては、インターロイキン6レベルが高いことは6か月後のうつ病リスクの予測因子であった。小児期困苦歴を有さない者では、このようなうつ病と炎症の連関はなかった。困苦度の高い者における炎症反応は、6か月後うつ状態が軽減してもなお認められ、この炎症は急性ではなく慢性であることを意味していた。今回の結果を、思春期女性以外の者やさらに特により重度の長期のうつ病患者に拡大したさらなる研究が必要である。しかしこれらの知見は、将来的に医師が特にリスクの高い患者のうつ病や疾患をより良好に管理するのに役立つであろう。 |
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自閉症スペクトラム障害のスタディにおいて共通する病因のリスクファクターとして統合失調症および双極性障害が示唆された [2012-07-17] |
Common etiological risk factors suggested in study of autism spectrum disorders, schizophrenia and bipolar disorder |
親や兄弟などの第一度近親者に統合失調症または双極性障害を有するものは自閉症スペクトラム障害(ASD)のリスクが上昇する可能性があるとの報告がArchives of General Psychiatryオンライン版に掲載された。このスタディの背景によると、このASDと統合失調症との臨床的および病因についての関連は分かっておらず、双極性障害は統合失調症とのオーバーラップがあることから含められた。研究者らはスウェーデンおよびイスラエルの地域住民登録を用いて、統合失調症、双極性障害、またはこれら両者がASDのリスクファクターであるかどうかを調査した。その結果、親に統合失調症の者がいるとSwedish national group sample(オッズ比[OR]2.9)およびStockholm County, Sweden, group(OR, 2.9)でASDリスクが高いことが示された。兄弟における統合失調症もまたSwedish national group(OR, 2.6)およびIsraeli group(OR, 12.1)でASDリスクを上昇させた。双極性障害もまた同様パターンの関連を示したがその度合いは低かった。これらの結果からASD、統合失調症および双極性障害は同じ病因のリスクファクターを共有していることが示唆された。 |
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βアミロイド形成抑制および記憶力保持においては食事よりも運動の方が有益である [2012-07-10] |
Exercise more beneficial than diet in reducing β-amyloid formation and restoring memory loss |
Journal of Biological Chemistry最新号"Paper of the Week"に掲載された日本のスタディの結果、アルツハイマー病(AD)との戦いにおける運動の有益性が示された。認知症の最も一般的な原因であるADは、認知機能の低下をもたらす。食餌療法や運動などの因子がその発症に役割を果たしているようであり、高脂肪食はリスクファクターである。今回の研究ではADマウスモデルにおいて、食餌療法、自発的な運動および食餌療法と運動の併用を比較した。その結果、これらのマウスにおいて高脂肪食により引き起こされるβアミロイド形成(ADの特徴を定義するもの)の軽減および記憶力保持に関して、食餌療法よりも運動の方がより有益であることが示された。さらにこの研究チームは、食餌療法と運動の併用は運動単独と比較し有意差がなかったことを明らかにした。彼らは、運動による好ましい効果は脳内βアミロイド沈着物の分解が増加することによるとしている。著者らは、AD予防において運動を優先することを推奨している。 |
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妊娠後期の感染は長期の神経学的変化および高齢期の記憶障害を引き起こす [2012-07-10] |
Infections during late gestation induce long-term neurologic changes and memory problems in old age |
オープンアクセス雑誌Journal of Neuroinflammationに掲載された研究の結果、慢性炎症が脳をアルツハイマー病(AD)の発症しやすい状態にし得ることが示唆された。研究者らはマウスにおけるAD発症において免疫系の攻撃がどのような影響を及ぼすかを研究した。その結果、妊娠後期の一つの感染であっても長期の神経学的変化および老年期の有意な記憶障害を引き起こすのに十分であることが示された。これらのマウスは持続的な炎症性サイトカイン増加、アミロイド前駆体蛋白(APP)レベル上昇、およびTauの細胞分布変化を有していた。この免疫系の攻撃が成人期に繰り返されるとその影響は強力に増強され、結果として病理学的加齢に見られるのと同様な変化を来す。これらのマウス脳内AD様変化はアミロイドβ(Aβ)増加を伴わずに発現した。しかし、ヒトAβを産生するように遺伝子操作されたマウスでは、ウイルス様攻撃によりAβ量がまさに炎症誘発性APP沈着部位において劇的に増加した。これらのマウスにおけるAPP/Aβ集合体とヒトADにおいて認められたAPP/Aβ集合体の類似性に基づき、筆者らは、感染による慢性炎症がAD発症の早期イベントとなり得ると述べている。 |
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糖尿病発症を予防または遅延させることにより認知機能低下を予防できる可能性がある [2012-07-03] |
Preventing or delaying onset of diabetes may prevent cognitive decline |
糖尿病を予防またはその発症を遅延させることは認知機能低下を防ぐと考えられている—糖尿病と認知機能低下との関連が9年間のスタディの結果強く示唆されたとArchives of Neurologyに掲載された。過去のスタディにおいて既に糖尿病を有する患者における認知機能低下が観察されている。今回の新たなスタディは、高齢になり糖尿病を発症した患者においても認知機能低下のリスクが大きいことを示した初めてのものである。これはまた認知機能低下リスクと糖尿病重症度とを関連付けた初めてのスタディである。今回のこの結果は、1997年に開始された二つの地域診療所の70歳超の高齢者3,069人を組み入れた、Health, Aging, and Body Composition(Health ABC)スタディにおける最新の知見である。患者全員がスタディ期間に定期的な採血および認知機能検査を受けた。スタディ開始時に糖尿病を有していた人々は、スタディ経過中に糖尿病を発症した人々よりも認知機能低下速度が速かった―さらに、糖尿病を全く発症しなかった人々よりも認知機能低下速度が速い傾向にあった。血糖値コントロール不良の重度糖尿病患者は認知機能低下が速かった。 |
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心的外傷後ストレス障害は将来の心イベントおよび死亡リスクを倍増させる [2012-07-03] |
Post-traumatic stress disorder doubles risk of future cardiac events and death |
心筋梗塞または他の急性冠動脈イベントに罹患した患者の8人に1人は臨床的に有意な心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状を経験するとの24のスタディのメタ解析結果がPLoS ONEオンライン版に掲載された。多数の小規模スタディによると、急性冠症候群(ACS)誘発性PTSDは一般によくみられ、重大な健康上への影響を来しうるが、その有病率はよく分かっていない。この問題の拡がりをより認識するために、研究者らはACS誘発性PTSDに関する臨床スタディの初めてのメタ解析を行った。このメタ解析に使用された24のスタディには世界中のACS患者計2,383人が含まれた。スタディの結果、全体の12%、つまり8人に1人が臨床的に有意なPTSD症状を発症し、4%はこの障害の診断基準全てを満たした。米国の病院を退院するACS患者年間140万人のうち、168,000人が臨床的に有意なPTSDを発症するであろうことがこの結果から示唆される。 |
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