精神分裂病の脳病理:発達障害か変性疾患か?
Brain pathology in schizophrenia: developmental or degenerative?
Dr. Daniel R. Weinberger
National Inst. Mental Health, Clinical Brain Disorders Branch, Bethesda,
MD, USA, Presenter

Weinberger博士は、多くのエビデンスから、精神分裂病(以下分裂病)の生物学的リスクは人生の早期、すなわち臨床症状が顕在化するよりかなり以前に認められると述べている。出産時障害が成人期にみられる神経画像所見の異常と関連すること、大規模な一般人口を対象にした疫学的研究において、すでに1歳児の時点で運動、認知、社会的発達の異常が認められる、といった報告はこうした考え方に一致するものである。

分裂病患者について、脳神経細胞の微小な病理所見は報告されているが、そうした病理は神経変性を伴っておらず、したがってWeinberger博士によれば、神経変性仮説を支持する所見とはみなされない。

一部の患者で継時的に症状が増悪したり、抗精神病薬に対する反応性が低下するといった臨床観察から、分裂病において神経変性が生じているとする研究者が一部認められる。Weinberger博士は、こうした現象は神経変性以外の要因、たとえば機能障害の蓄積的効果やそれに起因する心理社会的な転帰を反映している可能性を指摘している。

神経変性の存在を支持するその他のエビデンスは、分裂病患者についてMRIを用いた縦断的な評価から得られている。しかし、その所見はばらついており、左半球異常が報告されている研究もあれば、また別の研究では右半球あるいは前頭葉の異常が報告されている。大多数の研究で海馬体積の減少が報告されているが、ある研究では逆の結果が報告されている。海馬体積の減少を報告している研究についても、その減少の程度については死後脳から得られた知見と不一致がみられる。

Weinberger博士は縦断的なMRIで認められた異常は神経変性を反映するものではないと考えている。


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:昭和大学医学部精神科助教授 中込和幸 

 

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