この治療法に要する時間は約1時間で、病院に一泊する必要はない。ストップウォッチ大のジェネレータを左胸部の皮下に埋めこみ,左頸部の迷走神経に電極を連接させる。切開部が治癒するのを待ってからこの装置を作動させ、マイルドで断続的な電気パルスを神経に送る。刺激の頻度や持続時間,および強さは調節できる仕組みになっている。
ヨーロッパにおいて、Rush博士らは重症で難治なうつ病患者60人に対して10週間にわたる迷走神経刺激の臨床実験を施行した。実験中、患者が薬物治療を継続することは容認された。
被験者の1/3において臨床的に明らかな抗うつ効果が認められた。このうちの半数ではうつ状態は寛解に至った。さらに迷走神経刺激を9ヵ月間延長したところ、有効率も増大し、寛解率は2倍となった。
迷走神経刺激によって臨床上重大な副作用を呈した患者はいなかった。 実験による利点が感じられないことを理由に装置の除去を希望した患者は1名であった。軽い副作用として一般的に認められるのは迷走刺激中の軽度の声質変化であり、10週では患者の50%に、1年間では患者の20%に認められた。その他の副作用には、刺激中の軽度の咳や咳払いなどが見られた。また2、3人の患者が労作時の息苦しさを報告した。
Rush博士は迷走神経刺激が,一部のうつ病患者、特に薬物療法に十分に反応しない患者に対して役立つことを証明できると確信している。