精神分裂病の長期治療では、再燃率ならびにその再燃までの期間が治療効果を判定する際の良い指標となる。精神分裂病において無作為抽出で長期間にわたり対照群をおき比較した治験では、これらの指標からリスペリドンがハロペリドールより優位性を持っていることが確立されてはいるものの、実際の臨床では精神分裂病者のコンプライアンスの低さにより長期治療が中断されやすいことが問題となっている(Kane, 1996)。
Kane博士は、まず従来の抗精神病薬の持続性デポ剤が同経口薬に比べて再入院率を低下させることを示した(Hogarty et al., 1979)。次いで、最近の非定型抗精神病薬経口剤による治療が、従来の抗精神病薬デポ剤治療に比べて再入院率を低下させたという興味ある所見を提示した(Love et al., 1999)。そしてこのような流れの中で、リスペリドン持続作用注射薬が開発されたことになる。
続いて、Kane博士は、リスペリドン持続作用注射薬の特性を紹介した。この製剤は、これまでの脂肪組織からの遊離を利用するためのエステル化を必要とする方法ではなく、ポリマーマトリックス法によりリスペリドン放出を確保するものである。このポリマーは水分を含むと一定の割合で少しずつリスペリドンを放出する性質を持つものである。この注射薬の単回投与後の薬物動態を調べた検討では、注射後一定の期間をおいて血中濃度が急速に上昇し、7週間後に消失することが明らかとなっている。
また、Kane博士は約1500人の精神分裂病症例において行ったプラセボ剤との比較対照治験の結果も報告した。この結果では、良好な急性期治療効果とともに長期的にもその効果が継続して得られたこと、そして予期せぬ副作用もみられなかったとのことである。
今回の発表は、この持続性リスペリドン製剤が臨床的に導入されれば、効果的でかつ安定した精神分裂病治療をもたらし、ひいては良好な服薬遵守(コンプライアンス)にもつながることを強く示唆するものであった。