新しい抗精神病薬:異なる臨床的観点から
Novel antipsychotics: different management issues
Dr. Pierre Chue, FRCPC
Alberta Hospital, Edmonton,
Alberta, Canada, Presenter

これまで抗精神病薬の安全性については錐体外路系症状や遅発性ジスキネジアが注目を浴びてきたが、他の臨床上の問題、つまり心電図上のQT延長、体重増加、プロラクチン上昇、糖尿病性変化、脂質代謝異常なども重要な問題としてもっと注目されてよいと思われる。

Chue博士はこのような観点から、まずQT延長に関してチオリダジン、ジプラシドン、ハロペリドール、クエチアピンがリスペリドン、オランザピンに比べてより心電図上QT延長を引き起こしやすいと述べた。

次にChue博士は、抗精神病薬治療の結果として起こりやすい体重増加についてもクロールプロマジン、チオリダジン、クロザピン、オランザピン、クエチアピンでは、リスペリドン、ジプラシドン、ハロペリドールに比べてより頻繁に、しかも程度も強く出現するという興味ある結果(Allison et al., 1999)を引用した。また、この体重増加はオランザピンでは52週間後でも、そしてクロザピンでは48ヵ月後でもプラトーに達しない傾向にあることも明らかにした(Henderson et al., 2000)。

また、Chue博士は、高プロラクチン血漿は抗精神病薬治療で非常に高頻度にみられるが臨床的に問題となるような症状を必ずしも常に現すというわけでないのに対して、血糖値、インスリン分泌、脂質代謝などは糖尿病や心血管障害に結びつきやすいので注意を要することを強調した。そして、リスペリドンに比べて、クロザピンとオランザピンが2型糖尿病や脂質異常を引き起こす危険性がより高いことを示した。

今回提示されたような各薬剤の副作用出現頻度についてはまだ一定の結論には至っていない部分が多いと思われるが、発表後にフロアから特別な質問やコメントはみられなかった。今回の発表は、患者の全身状態やすでに確立された既知の危険因子保持の有無に配慮し、同時に個々の患者にとっての有効性と危険性のバランスを考えた上で適切な抗精神病薬を選択していくことの重要性と、代謝に関するマーカーを定期的に検査していくことの必要性を我々に示唆している。このような対応により、結果的に、総治療費が減額できるだけではなく、分裂病患者が薬物療法を受け入れやすくなるものと思われる。


レポーター:順天堂大学医学部精神医学教室教授 新井平伊

 

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