地域精神医療の目的は、精神科患者をできるだけ正常かつ自発的な方向で社会に復帰させることにある。そのような観点から、精神分裂病患者の長期治療を行うことは重要なことである。しかしながら、その前に、長期治療の効果が正確に評価されているのか吟味する必要がある。たとえば、以前の研究においては、精神症状の改善や副作用のみが評価され、患者の社会心理的な状況が視野に入っていなかった。現時点で評価を要すると考えられる要因には、精神症状、認知機能、対人ないし社会的機能、職場ないし学校での機能、自立した生活ぶり、生活の質、服薬状況、副作用、入院、家族の負担、経済的損失などが挙げられる。
このうち、患者の生活の質に影響を与える要因は、家族や治療者のケアである。ところが、家族の評価や治療者の評価は患者自身の思っている生活の質とずれてしまうことがしばしばある。それは、家族が患者との間に心理的なしこりを持っているからであり、また治療者は患者を厳しく評価してしまう傾向にあるからである。治療者にとっては、おそらく評価の力点を変えることが、患者の主観的な評価をよりよく理解する上で必要かもしれない(たとえば、精神症状や依存行動の評価は控えめに行い、余暇活動は重視するなど)。
精神分裂病の長期治療において、症状をコントロールすることのみならず、患者の生活の質を高めることも重要である。したがって、心理社会的介入を薬物療法と併用すべきである。実際、両者の併用が、それぞれを単独で行った時よりも有効であるというデータがある。
薬物療法に関しては、表に示すように、非定型抗精神病薬が種々の点、すなわち精神症状の改善、認知機能の改善、副作用の軽減、そして再入院や再燃の低下において、従来の抗精神病薬よりも優れていることが知られている。さらに興味深いことは、ヨーロッパの精神科医に対するアンケートでは大部分のものが、もし自分の家族に抗精神病薬を投与するとすれば非定型抗精神病薬を選択すると答えていることである。