精神分裂病の長期治療において、患者個人、家族、そして社会に対する負担は特に再燃を来した時に巨大なものとなる。このような再燃を防ぐ手段にはいろいろあり、たとえば認知行動療法が患者と治療者との治療同盟のようなものを形作ることで治療を継続させ、さらには病識をつけ治療を遵守させることにより再燃を予防しうることが報告されている。
さらに、抗精神病薬それ自体も精神分裂病の長期治療において再燃を予防する効果のあることが知られている。しかしながら、このような長期治療においてはしばしば患者が薬を服用しなくなり再燃に至ることが多いことも知られている。患者の服薬状況に影響を与える要因に関して、たとえば病気の受け入れ(病識)、周囲からの援助のレベル、家族の安定性、肯定的な治療関係、薬物の形態ないし投与経路を工夫することが、服薬状況を改善する可能性がある。それに対して、副作用や効果が不十分であること、他剤併用、病識の欠如、医師患者関係が良好でないことが、服薬状況を悪化させる可能性がある。
持効性の抗精神病薬(デポ剤)を筋肉注射することは上記の工夫のひとつであるが、これにより決められた量の薬物を確実に投与することが可能である。確かに、従来のデポ剤には副作用をはじめとして悪いイメージがつきまとっているが、このようなデポ剤の方が抗精神病薬を経口投与するよりも有用であるとの証拠もいくつかある。さらに、少なくとも、既にデポ剤を投与されている患者とその精神科医はデポ剤を気に入っているのである。最近の系統的レビューにおいても、デポ剤を使用した方が薬物を経口投与した場合よりも有意に有効であることが確かめられている。しかしながら、副作用はデポ剤の方に有意に多かった。
実際、表に示すように、アンケートに答えた英国の精神科医のうち、50%以上が従来のデポ剤は優れた効果を有するものでもないし、患者の受け入れも悪いと述べている。また、50%以下と、それほど多くはないが、デポ剤は旧式であり副作用が出やすいと答えたものがいる。しかしながら、デポ剤の有用性を考慮した場合、大部分のものが服薬遵守に役立ち、再燃予防につながることを認めている。さらに、触法患者や治療を拒否する患者、慢性の患者にも有用性があると答えている。それゆえ、もしも非定型抗精神病薬のデポ剤(これは、従来のデポ剤に比べると副作用が少ないと考えられる)が出現すれば、90%以上の英国精神科医はそれを使用すると言うのである。