Early stageの非小細胞肺がんの予後は不良である。典型的な5年生存率は低いものでは9%から高くても38%の範囲であるとPisters博士は指摘している。術後補助化学療法(adjuvant
chemotherapy)の研究では、これら早い病期の症例群における術後補助化学療法の生存恩恵(survival benefit)は証明されていない。しかしより進行期の非小細胞肺がんに対しては、いくつかの臨床研究において導入化学療法は生存恩恵があることが示されている。
したがってPisters博士らはearly stageの非小細胞肺がんに対する術前化学療法の実行可能性を評価する研究を施行した。この第II相の成績は2000年に論文発表され、術前化学療法としてのTXL+CBDCA療法の実行可能性が示されている。今年のASCOで博士は長期経過観察の成績を報告した。症例登録されてからの平均観察期間は4.8年だった。
対象症例の臨床病期はT2N0、T1-2N1、T3N0-1であり、133症例が登録された。症例は非小細胞肺がんとして典型的な背景因子を有していた。
手術の前後にTXL(225mg/m2 3時間点滴静注)+CBDCAの化学療法を21日毎に施行し、第I群は術前に2サイクル、術後に3サイクルの治療を受けた。第II群は術前に3サイクル、術後に2サイクル受けた。大半の症例は予定された術前化学療法を完了したが、術後化学療法を完了した症例は半数以下であった。
術前化学療法の腫瘍縮小効果は良好であり、奏効率は第I群では56%、第II群では44%であったとPisters博士は報告した。
術前化学療法の効果
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第I群
(n = 94) |
第II群
(n = 39) |
Major Response
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奏効率 |
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95%信頼域 |
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SD |
31 (33%) |
18 (46%) |
PD |
5 (5%) |
3 (8%) |
評価不能例 |
5 |
1 |
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副作用は極めて典型的なものであり、主に好中球減少であった(第I群で36%、第II群で51%)。
全体で95%の症例が手術を受け、86%で腫瘍の完全摘除がなされた。病理学的著効(pCR)は5%の症例に得られた。
再発は61症例(約46%)で確認され、その多くは遠隔転移であった。それらの再発部位は、脳のみ(21%)、局所と遠隔(18%)、局所のみ(15%)であった。この再発所見の成績は従来の手術単独の報告と同様だった。
全症例における1年生存率、3年生存率、5年生存率はそれぞれ84%、58%、45%であった。これらの成績を過去の成績(historical
experience)と比較検討するのは困難である。一般にT2N0症例の手術単独療法の5年生存率は通常38%とされている。しかしこの臨床研究では多くの症例がそれより進行した病期であったことを考慮すると、45%という5年生存率は有望であるとPisters博士は述べている。
BLOT生存率
症例群 |
1 year
(%) |
3 year
(%) |
5 year
(%) |
I群 |
87 |
60 |
48 |
II群 |
77 |
53 |
NA |
総計 |
84 |
58 |
45 |
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Mountain Data
* |
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臨床病期 |
T2N0 |
72 |
46 |
38 |
T1N1 |
79 |
38 |
34 |
T2N1 |
61 |
34 |
24 |
T3N0 |
55 |
31 |
22 |
T3N1 |
56 |
12 |
9 |
* Chest 1997
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以上の結果から、TXL+CBDCA療法による術前化学療法は安全で実行可能性があり、またその後の手術操作や手術致命率に悪影響もないことが示唆された。再発様式も従来のそれと同様であるが、一方、生存率の成績は勇気づけられるものであった。
現在Intergroupで高度優先臨床研究(SWOG 9900)が進行している。米国とカナダのほとんどの大規模共同研究グループが参加しており、early
stage非小細胞肺がん600例の登録を計画している。TXL+CBDCA療法による3サイクルの術前化学療法後手術対手術先行の無作為割り付け研究である。
他の腫瘍系でも示されているように、術前化学療法は手術単独療法と比較して生存率の改善が期待されるとPisters博士は述べている。いずれ、より有効なあるいは特異的標的治療薬が術前化学療法に組み込まれるであろうが、現在のところ、この研究結果はearly
stage非小細胞肺がん患者にとって福音であろう。
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