Mamounas博士 はNSABP(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)の「臨床研究
B-28」の結果を報告した。この大規模無作為比較試験は3,060例のリンパ節転移陽性乳がん症例を研究対象として、AC療法(DOX+CPM)後にTXLを追加投与する新しいレジメン(AC→TXL)の効果を検討したものである。手術可能な病理学的にリンパ節転移陽性の乳がん症例に対して層別化の後、2群に無作為割り付けした。対照群は標準量を用いたAC療法(DOX
60mg/m2、CPM mg/m2)を4サイクル施行し、比較群はこの標準AC療法の後にTXL(225mg/m2を3時間で投与)の4サイクルを追加した。
50歳以下でエストロゲンレセプター陽性またはプロゲステロンレセプター陽性の症例と50歳以上の症例は、全例AC療法開始時からタモキシフェン(TAM
20r 経口連日)を5年間内服した。Lumpectomy症例は乳房照射を受けた。乳房摘除症例は、胸壁、局所リンパ節に放射線療法を施行しなかった。
Primary endpointはdisease free survival(DFS:無病生存期間)とoverall
survival(OS:全生存期間)であった。観察期間の中央値は、AC療法群で64.8ヵ月、AC/TXL群で64.4ヵ月であった。
症例の背景因子は両群間でほぼ同様であった。全症例の約半数は50歳以下であり、約1/3は50歳〜59歳であった。約2/3の症例の乳房腫瘤は直径2cm以下であり、70%の症例で転移リンパ節の個数は1〜3個であった。わずかに4%の症例が10個以上の転移リンパ節を有していた。半数の症例が乳房摘除で残り半数はlumpectomyであった。エストロゲンレセプター陽性は約2/3の症例にみられ、プロゲステロンレセプター陽性も約2/3の症例にみられた。84%の症例にTAMが投与された。
Mamounas博士によれば、副作用はadjuvantとしては許容範囲内であり、AC療法中のグレード3/4発現率は約27%であった。PAC
療法中のそれは35%だった。PAC療法で最もよくみられたグレード3/4の副作用は、神経障害14%、関節痛または筋肉痛が約11%、運動神経障害が約7%、好中球数減少が約4%、好中球減少性発熱が2%、感染症2%などであった。重篤な過敏症はまれで1%であった。
二次発がんとして急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群が8例あり、その内訳はAC→TXL群に6例、AC群に2例であった。これら症例の多くは予防的G-CSFも受けていた。そして8例の内5例は放射線療法も受けていた。
AC→TXL群では再発率の低下は17%であり、これは統計学的に有意であった(p=0.008)。AC群での実際の再発は461件であり、AC→TXL群では400件であった。全生存期間については、AC群で255例死亡、AC→TXL群で243例死亡であり、両群間に有意差は認められなかった。
Disease-Free Survival and
Survival
All Patients
|
AC
1528 pts |
AC→T
1531 pts
|
RR*
(95%CI) |
p
value |
Events |
461 |
400 |
0.83
(0.73-0.95) |
0.008 |
Deaths |
255 |
243 |
0.94
(0.78-1.12)
|
0.46 |
* RR Adjusted for # (+) nodes, operation,
TAM use |
AC群の5年間無病生存率は72%であり、AC→TXL群のそれは76%であった。全生存率は85%であり、両群間で同様であった。

下の表に示されるように各々特定の部位での再発あるいは事象について検討してみると、すべての項目においてAC→TXL群では減少が認められる。
5-Year Cumulative Incidence
of
First Events at Specific Sites
|
AC
1528 pts(%) |
AC→T
1531 pts(%)
|
Local Reccurrence
Regional Reccurrence
Distant Reccurrence
Opposite Breast
Other Second Primary Cancer
Dead with No Evidence of Disease |
4.7
2.9
14.9
1.6
2.9
1.1 |
4.2
2.2
13.9
0.9
2.1
1.0 |
All 1st Events |
28.1 |
24.4 |
|
以前の研究結果では、ホルモンレセプター陽性症例に対してTXLはそれほど有効でないことが示唆されていた。そこでホルモンレセプターとTXLの効果との相関をsubset
analysisで検討したところ、ホルモンレセプター陽性症例において無病生存率は21%減少したが、ホルモンレセプター陰性症例のそれは9%だった。しかしこれは有意差には至らなかった。
Mamounas博士によればリンパ節陽性乳がん症例においてタキサンの有用性を示す研究が今や3つ存在している。標準療法であるAC療法にTXLを追加することの有用性を最初に示した研究は「CALGB
9344」であるが、2番目に示したこのNSABPの「臨床研究 B-28」である。その他、AC→docetaxelでもAC→TXLと同様な成績が報告されている。
リンパ節陽性乳癌症例に対してアンスラサイクリン系薬剤が長い間gold standardとして用いられてきたが、上記の成績はそれを凌駕する可能性を示唆している。
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