乳がんの治療によく用いられるレジメンは数種類ある。しかしそれらの副作用や要する医療費は様々である。術前化学療法の場合、使用するレジメンの種類にもよるがpCRは15%から30%である。そしてpCR症例は長期生存が得られ無病生存期間も長いことが知られている。

すべての化学療法レジメンが1人1人の症例に等しく有効ではないことはよく知られた事実である。短期でより副作用が少なくかつ医療費も高額ではない化学療法レジメンで治癒にいたる乳がん症例も存在する。しかし多くはより長期で副作用も強くかつ医療費もより高額な化学療法レジメンが必要である。ある特定の患者にどのレジメンが最も恩恵があるかということを知る方法がないので、医師は何の選択基準もないままに現在よしとされているいくつかのレジメンを使用しているに過ぎない。
遺伝子発現プロファイリング技術を用いることにより、ある特定のレジメンに対するある特定の患者の反応性を予測することが可能かもしれない。この新しい技術では、がん組織サンプルからRNAを抽出し、Millennium
Pharmaceuticals社のcDNA microarrayを用いて遺伝子発現プロファイリングを調べる。
研究者達はこの技術を用いて術前化学療法でよく使用されるレジメンである sequential
パクリタキセル/FAC療法 (TXL→5-FU、ドキソルビシン、シクロホスファミドの3剤併用療法)でpCRとなりそうな症例を特定できるかどうか検証したかった。
彼らは術前化学療法を開始する前に乳がん患者から針生検でがん組織サンプルを採取した。そしてまず最初の24例において術前化学療法を施行し、その結果に基づいてpCRとなる症例を予測しうるmulti-gene
predictorを設定した。次に新たに21症例において同様にがん組織サンプルを採取した後、術前化学療法を施行し、そのmulti-gene
predictorの正確さを検証した。前者、後者の両群とも約80%の症例はT2-T3の症例だった。ほとんど全部の症例が、後術前化学療法として毎週法のTXLを12週間施行され、その後FAC療法を4コース施行された。両群で各2例は3週法のTXLを施行された。後者の群で3例はTXL施行時にハーセプチンの同時併用療法を受けていた。
彼らは74の遺伝子の特異的な発現パターンが71%の正確性でパクリタキセル/FAC療法によるpCRを予言できたことを今年のASCOで報告した。陽性予測値は75%であった。すなわち、このテストで4例のpCRを予言すると、この内3例が本当にpCRになったということを示している。「このことは、この遺伝子発現プロファイリング技術は診断ツールとして十分に証明されたということである」とPusztai博士は述べた。
Independent Validation on 21 New Cases
Accuracy
Sensitivity
Specificity
PV+
PV- |
71% (48%
- 89%)
38% ( 9% - 76%)
92% (64% - 100%)
75% (19% - 99%)
71% (44% - 90%) |
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彼らはハーセプチンの治療を受けた3例を除いて再度成績を分析したところ、ハーセプチンがTXLやアンスラサイクリンに対する感受性を変化させうることが判明した。すなわち、この3例を除くと、予測の正確性は78%に向上し、陽性予測値は100%となった。
しかしこの初めて試された第一世代のテクノロジーはおそらくまだ理想には遠い。正確性と陽性予測値が高値なため、このテストの感度は低いからである。
したがってPusztai博士のグループはより多数の症例のデータを用いて第二世代のテストを創った。さらにAffymetrix
companyから別のDNA チップをそのテストに追加した。この第二世代のテストは現在MD Anderson Cancer
Centerでの臨床研究においてその正確性を検証されているところである。
「各症例の遺伝子発現に基づいて各々の症例に適した化学療法を選択するのがこの研究の究極のゴールである」とPusztai博士は述べている。術前化学療法によく用いられるいくつかのレジメンに対してpCRを予測できるテストを創るのは可能であろう、と彼は信じている。いつかそのようなテストでがん組織サンプルを調べることにより適切な化学療法レジメンを選択できる日が来るかもしれない。
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