タモキシフェンとBRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異女性における乳癌発生率 A Genomics Resequencing Project Embedded in the Breast Cancer Prevention Trial
Tamoxifen and Breast Cancer Incidence Among Women with BRCA1 or BRCA2 Mutations: A Genomics Resequencing Project Embedded in the Breast Cancer Prevention Trial
Dr. Mary-Claire King,
University of Washington, Seattle,
WA, USA

タモキシフェン(TAM)は、National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)の乳癌予防試験の結果によると、女性において乳癌発症を50%減少させる。BRCA1とBRCA2という乳癌関連遺伝子に変異をもつ女性は、乳癌が発生する高い危険群にあることが知られている。これらの遺伝的に高危険群と考えられる女性の乳癌発生がTAMにより減少できるかどうかは知られていない。

この疑問に答えるため、Mary-Claire King博士とその同僚たちは、この乳癌予防試験期間中に浸潤性乳癌を発症した288人の女性を検証した。

BRCA1と2の変異の有無は、基本的な臨床検査のために保存された血液サンプルから決定された。試験期間中BRCA1変異を有する女性では8人が乳癌になった(5人がTAM投与群で3人がプラセボ投与群であった)、一方、BRCA2変異を有する女性では11人が乳癌になった(3人がTAM群、8人がプラセボ群であった)。

TAMを服用したときの乳癌発生の危険率は、BRCA1変異女性では1.67、BRCA2変異女性では0.38、どちらの遺伝子変異ももたない女性では0.48であった。この危険率は、乳癌発生数自体が少なかったので統計的有意差に至らなかった。

乳癌の生物学的性質との関連では、BRCA1の遺伝子変異を有する女性における乳癌の80%はエストロゲンレセプター(ER)陰性であること、そして、TAMはER陰性の乳癌の発生を減少させる効果がないことを指摘している。

対照的に、BRCA2変異の女性におこる乳癌の80%はER陽性である。ER陽性乳癌を予防するTAMの効果をみた危険率は0.32で、BRCA2変異を有する乳癌のTAMによる予防効果と同等である。

King博士は、BRCA1変異女性にではなく、BRCA2変異女性における乳癌の発生を減少させるTAMの効果は、おそらく、2つの乳癌関連遺伝子の影響による乳癌のER状況と関係があるだろうと述べた。

博士は、この結果は乳癌予防に大いに関係してくると述べ、BRCAの変異状況にかかわらず、TAMはER陽性なら乳癌の治療に今もなお使うべきだとも述べた。


レポーター:Jill Waalen M.D.
日本語翻訳・監修:
大阪大学医学部腫瘍外科講師・附属病院乳腺内分泌外科診療局長
田口哲也
 
 
 Photo courtesy of ASCO


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