食道癌手術における術前化学療法の有効性−Randomized Control Trial
Surgical Resection With or Without Pre-Operative Chemotherapy in Oesophageal Cancer: An Updated Analysis of a Randomized Controlled Trial Conducted by the UK Medical Research Council Upper GI Tract Cancer Group
Peter Clark, M.D.
Medical Research Council Clinical Trials Unit,
London, UK

現在の食道癌の標準治療は手術であるが、その予後は限られおり、2年生存率は約20%しかない。これまでに、増加するこの食道癌の治療に術前化学療法を加えることの有効性が 非無作為化試験で示唆されてきた。

術前化学療法が生存率の延長およびPS(performance status)の改善に寄与するか否かを明 らかにするため、1992年から1998年にかけて患者802人をこの前向き無作為試験にエントリーした。治療歴のない切除可能なあらゆる細胞型の食道癌を、1) 手術単独群 2) 術前化学療法を加える群(CDDP 80mg/m2 4時間静注4日間 + 5-FU1mg/m2/day 4日間持続静注、これを3週間あけて2サイクル実施)の2群に割り付けした。平均年齢は62歳で3/4が男性だった。研究の開始時期が1990年代の初期だったこともあり、staging は胸部X線写真と超音波で行なった。

術前化学療法は原発巣の縮小と微小転移をなくすことによって作用すると考えられている。

放射線療法は、放射線治療を加えたいとする医者によって登録された患者すべてに照射療法を加えるという条件でのみ許可した。さらに、放射線照射は化学療法とは同時には行わなかった。その結果、9%の患者のみが放射線照射を受けることになった。完全切除と思われた率は化学療法を加えた群で78%、手術単独群で70%であり、術後合併症の発生に2群間の差はなかった。術後1ヵ月以内に死亡した患者はそれぞれの群で約10%だった。

3年間のfollow-upで596人が死亡したが、2群間で生存に有意差がみられた。すなわち、化学療法を加えた群では生存期間の中央値(MST)は16.8ヵ月、2年生存率は43%であったのに対し、手術単独群では MSTは13.3ヵ月、2年生存率は34%だった。

Clark博士の発表後のdiscussionでは、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center のDavid P Kelsen博士がMedical Research Council trial(OEO2)とUS Intergroup113(INT113)trialの相違を述べた。それによると、INT113では一部は術前、一部は術後ではあるが、似た治療を行った群があり、試験間の結果に有意差はなかった。また、 結果に影響を及ぼしたであろう分子生物学的研究は、いずれの試験でも行っていない。

一方でKelsen博士は、 Europian trialでは外科医が手術の形式を選んでいるが、米国の試験ではこれがプロトコールで決められている点に注意を促している。また、Europian trial の結果は決定的なものではなく、現時点では診療の基準を変えるのは適当ではないと述べ、手術単独群と術前化学療法群で個々の患者のデータに基づくmeta-analysis が必要であることを指摘した。


レポーター:Aaron Levin
日本語翻訳・監修:東京大学医学部消化器内科 大塚基之
 


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