Fong博士はCEA抗原のターゲット蛋白は、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、そして乳癌で過剰発現していると言った。樹状細胞は新しい抗原に対するT細胞免疫を誘導する抗原提示細胞である。しかし、樹状細胞は全白血球中1%以下に存在しているにすぎない。この樹状細胞の数を増加するために、Fong博士と共同研究者は造血成長因子のFlt3リガンド20μg/kgを転移を有する肺癌と結腸直腸癌の12例に投与した。Flt3リガンドは樹状細胞の数を20倍に増幅した。
「これは患者を樹状細胞製造工場に変えるようなものだ」とFong博士は言う。Flt3リガンドは単球や骨髄中の血液前駆細胞も増幅したと付け加えた。
次の段階として研究者らは、樹状細胞を採取するために2回のアフェレーシスを行った。それからCEA抗原からのエピトープにより樹状細胞を修飾して抗原提示細胞としてから、樹状細胞は患者に注入された。Fong博士は抗原提示樹状細胞はin vivoに最小限の毒性でCD4とCD8によるT細胞免疫を誘導すると主張した。
「この治療は、CD8陽性テトラマーT細胞のin vivoの増幅と関連しての臨床効果につながる」と彼は言った。
臨床的に、2例が腫瘍の縮小、1例ではmixed responseが起こり、そして前治療で増悪した2例で病勢の安定(Stable Disease)が認められた。
特定の臨床効果よりもっと重要なことは、理論の証拠が示されたことだとFong博士は述べた。以前の研究は非ホジキンリンパ腫のような免疫原性の高い腫瘍に集中していた。しかしFong博士らのトライアルはこの技術が固型癌にも同様に応用しうることを示した。患者の体内で樹状細胞を増幅することの利点は、より少ない操作で充分であることを意味した。
「樹状細胞に変換させるために他の細胞を増幅することを試みているのではなく、患者自身の細胞を使用しているのだ」とFong博士は述べた。
この方法は他の癌にも応用可能である。例えば、前立腺癌ではCEA抗原ではなく前立腺特異抗原を標的蛋白として用いうるかもしれない。そしてその方法は原理的には同じである。
レポーター:Aaron Levin 日本語翻訳・監修:愛知県健康づくり振興事業団副理事長 小川一誠