手術可能乳癌に対する術前(ネオアジュバント)全身療法
Preoperative (Neoadjuvant) Systemic Therapy for Operable Breast Cancer
S. Eva Singletary, M.D.
M.D. Anderson Cancer Center, Houston,
TX, USA

ランペクトミーができるような腫瘤のダウンステージがネオアジュバント化学療法により可能である。NSBBPの無作為試験によると、ネオアジュバント療法を受けた患者は受けなかった患者に比べてランペクトミーを12%多く可能にした。局所再発率は6年間の観察期間で両群に差がなかった。

腫瘍のダウンステージに明らかな優位性があるのにもかかわらず、Singletary博士によれば、いくつかの外科的な疑問が提起可能だという。ネオアジュバント療法は、腫瘍径については15%〜40%の患者でCRが得られる。しかし、これらCR患者の半数においてのみ、乳腺組織の病理学的検査でミクロの浸潤癌が消失するだけである。Singletary博士は、乳房温存手術が計画された時、検出可能な腫瘍自体が消失してしまうので、切除されるべき乳腺の領域を決定することが困難になると述べている。Singletary博士の施設、M.D. Anderson Cancer Center、では外科医が乳腺超音波検査を使って金属クリップを配置し、治療前の腫瘤の領域に印をしている。

ネオアジュバント療法はまた、腋窩リンパ節の処理についても問題を提起している。原発腫瘍のダウンステージに加えて、ネオアジュバント療法は腋窩リンパ節転移に重大な効果を加えることができる。本学会において引用された臨床試験の結果によると、ネオアジュバント療法を受けた患者は、リンパ節転移陰性の率が37%も高かった。

Singletary博士は、今回と他の研究から得られた同様な結果は、ネオアジュバントを受けたある患者群では、腋窩リンパ節郭清は、診断的役割だけでなく、治療的役割も失ってしまうと警告した。ネオアジュバントに良好な効果を示した患者に腋窩郭清をおこなうかどうかの決定を導くために、センチネルリンパ節生検による転移の有無の検索がより行いやすくなると示唆した。演者の施設からの予備的なデータによると、腋窩リンパ節への転移について、センチネルリンパ節生検はわずかな偽陰性を生むだけであった。


レポーター:Jill Waalen, M.D.
日本語翻訳・監修:
大阪大学医学部腫瘍外科講師・附属病院乳腺内分泌外科診療局長
田口哲也
 


Copyright 2001 by DOL Inc. All rights reserved.