癌に対する遺伝子治療を用いたアプローチ
Gene Therapy Approaches for the Management of Cancer
Jack A. Roth, M.D.
M.D. Anderson Cancer Center, Houston,
Texas, USA

遺伝子治療を用いた治療戦略が癌細胞を攻撃するために考案されており、Jack Roth博士はこれらのうち臨床試験にまで到達した最も有望なアプローチをとりあげた。 癌細胞で欠失した、あるいは無機能の癌抑制遺伝子を正常に回復させる試みが大きく発展している。Roth博士は、癌細胞へのtransformationには複数の遺伝子変異が必要であるが、腫瘍の進展を止めるには欠落した遺伝子の一つだけを正常に回復する(機能的に正常なアリルを導入する)だけで十分である可能性が初期の研究で示されていることを強調している。

従来、このストラテジーを用いた臨床試験では癌抑制遺伝子p53を正常に回復させることに焦点があてられてきた。あらゆるタイプの癌細胞の50%以上にp53の変異が認められ、p53に変異を認める癌症例の予後は不良であることが知られている。p53を正常化した場合に認められる腫瘍の縮小は細胞でのapoptosis (programmed cell death)機能の回復によると考えられている。

初期の臨床試験ではレトロウイルスベクターが用いられたが、現在ではアデノウイルスの方が遺伝子導入効率が優れていることが判明している。この方法を用いた臨床研究ではp53を組み込んだウイルスは患者の腫瘍内に直接注入されたが、これらのほとんどの症例でウイルスで導入されたp53の腫瘍細胞への組み込みとそれに伴う癌細胞のapoptosisの増加が証明されている。

非小細胞肺癌で行われた臨床第T相試験ではcisplatinと同時にアデノウイルスに組み込まれたp53が投与され、投与後の生検組織の79%でapoptosisの増加が認められた。注目すべきは、この臨床試験ではcisplatinを単独投与された場合75%の症例で腫瘍の増大が認められたことである。

非小細胞肺癌を対象に放射線治療と同時にp53が投与された臨床第U相試験では、44%の症例に完全あるいは部分寛解が認められ、1年無再発生存率は45%であった。これは放射線療法単独の場合に報告されている3ヵ月病理学的腫瘍抑制率の17%と比較すると著明な改善と考えられる。

その他の癌治療における遺伝子治療を用いたアプローチとしては、化学療法剤の感受性を増強する遺伝子を腫瘍細胞に組み込む方法がある。このストラテジーを用いた最初の臨床研究は単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼを脳腫瘍に組み込むもので、その後この細胞をgancyclovirで治療すると遺伝子を組み込まれた細胞内に細胞毒性を有するgancyclovir triphosphateが生成されるという方法である。

最後にRoth博士は、当初の予想に反してウイルスによる遺伝子導入は正常組織細胞よりも癌細胞においてより効率的であり、またウイルスベクターは容易に固形腫瘍の内部に浸透することを強調している。遺伝子導入に伴う合併症は軽微であり、一部の症例は外来での治療が可能であった。遺伝子治療と他の治療法の併用の結果は非常に有望なものであった。


レポーター:Jill Waalen, M.D.
日本語翻訳・監修:岡山大学医学部第二内科 田端 雅弘 
 


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