造血幹細胞への薬剤耐性遺伝子導入療法の進歩:現状と将来への応用
Progress in Stem-Cell Drug Resistance-Gene Therapy: Current and Future Applications
Stanton L. Gerson, M.D.
University Hospitals of Cleveland
and Case Western Reserve University, Cleveland,
Ohio, USA

薬剤耐性遺伝子を導入し造血前駆細胞を保護すれば、副作用である骨髄抑制を防止することでより大量の薬剤を用いた化学療法が可能になると考えられる。輸注する造血幹細胞に薬剤耐性遺伝子を導入するために現在いくつかの方法が検討されている。しかし、適切な前駆細胞の選別のみならず、遺伝子の導入と発現にはまだ問題が残っている。

Gerson博士は自家骨髄移植で用いられるCD34陽性細胞に多剤耐性遺伝子(MDR-1)を導入した臨床試験についてレビューしている。MDR-1遺伝子はanthracycline、vincristine、etoposide、paclitaxelなどの薬剤を細胞外に排出する細胞膜貫通蛋白質をコードしており、すべての臨床試験において遺伝子導入には修飾されたレトロウイルスが用いられており、輸注後の前駆細胞における導入遺伝子の発現は限られている。

顆粒球コロニー刺激因子、幹細胞因子、トロンボポエチンなどのサイトカインを用いることにより、遺伝子導入の改善が認められている。すなわち、サイトカインは有効な遺伝子組み込みに必要な細胞分裂を促進する。ある報告では輸注後30日で最大27%の骨髄細胞に、1年後では10%にMDR-1プロウイルスの組み込みが確認されている。

その他の薬剤耐性遺伝子を幹細胞に組み込む臨床試験も計画されている。サイトカインの使用、より未熟な造血幹細胞の使用、あるいはレトロウイルスに代えてレンチウイルスを使用するなどのより有効な遺伝子導入システムを用いることにより、MDR-1あるいはその他の薬剤耐性遺伝子により造血幹細胞をより有効に保護できることが期待される。


レポーター:Jill Waalen, M.D.
日本語翻訳:岡山大学医学部第二内科 田端雅弘 
 


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