プライマリーケアに携わるラテンアメリカの内科医へのうつ病の診断と治療のトレーニングの試み
Training Latin American Primary Care Physicians in the Diagnosis and Treatment of Depression
Robert Kohn, M.D.
Department of Psychiatry and Human Behavior, Brown University,
Providence, RI, USA, Presenter

Kohn博士は、「プライマリーケアに携わる内科医に、大うつ病の診断・治療をトレーニングすることができるか」という疑問を持って研究を開始した。彼の答は、プライマリーケアに携わる98人の内科医と3000人を超える彼らの患者を擁するラテンアメリカ5ヵ国における世界保健機構(WHO)の研究から、もたらされた。さらにプライマリーケアに携わる内科医10人も、トレーニングは受けないが研究の前後でのチェックを完全に受けるという対照群として研究に供された。

第1の研究過程は、15歳以上のすべての患者に対するうつ病チェックリストを完成させるため、プライマリーケアに携わる内科医に各項目について尋ねることにより、彼らの有する@臨床の実践(能力)とA知識、B(患者への)態度を評価するというものであった。彼ら内科医は、大うつ病のすべての診断を、自身のうつ病についての知識と態度に沿って報告した。彼らの報告は、患者の(主観的)報告からは独立したものであり、患者からの結果(正しい評価)は彼らに知らされなかった。患者は、DSM-IVまたはICD-10の症状チェックリストとZungのうつ病評価尺度を完成するために質問された。

1ヵ月後、内科医は診断と治療に焦点を合わせたうつ病の国際精神医学協会のトレーニング基本単位を受けた。さらに1ヶ月後に、内科医と患者の両群は最初と同じ方法を用いて再評価された。結果は、このトレーニングプログラムが内科医の大うつ病の知識を改善する上で効果的であったことを示している。十分にトレーニングを受けた内科医は臨床の場で、よりうまく大うつ病を診断することができた。彼ら(十分にトレーニングを受けた内科医)は、(患者への自らの)態度をフィードバックさせることで、単なる悲しみと大うつ病を区別でき、うつ病患者の問題を扱うことをより気楽に感じ、抗うつ薬が大うつ病の治療に有用であることに賛同し、また、抗うつ薬を投与することに一層自信を持てると感じるようになった。

しかしながら、トレーニング施行前後で確定された診断の割合は変わらなかったため、トレーニングが臨床の実践能力の向上に効果があったという根拠はほとんど認められなかった。尋ねてみると、プライマリーケアに携わる内科医は、時間と教育の不足が大うつ病の初期治療の支障になったと指摘した。Kohn博士は、心の健康に関わる専門家たちがラテンアメリカでは主として都市部に限定して活動しているので、プライマリーケアに携わる内科医の大うつ病の診断と治療の能力(の向上)はとりわけ重要であると説明した。今回得られた知見は、教育モデルを継続することが、大うつ病をもつ患者を扱うプライマリーケアに携わる内科医にとって十分には効果的でないことを示唆する。Kohn博士は、本研究はプライマリーケアに携わる既成の内科医に対象を絞ることに着目したが、今後このような研究は、プライマリーケアのトレーニングプログラムの中で研修医に対象を絞って行われるだろうと述べている。


レポーター:Andrea R. Gwosdow, Ph.D.
日本語翻訳・監修:関西医科大学精神神経科講師 磯谷俊明
 


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