Wulsin博士は、まずはじめに、1966〜2000年までのうつ病と冠動脈疾患に関する英語文献を再検討した。彼は以下の7つの基準に基づいて、うつ病が危険因子のひとつとして果している役割を検証した。つまり、
1)関係の強さ
2)予後
3)特異性
4)一貫性
5)薬用量反応効果
6)生物学的妥当性
7)治療への反応性
のそれぞれの観点から文献を考察した。
Wulsin博士は、50を超える研究で、うつ病が冠動脈疾患と関連していることを見出した。それらの研究の中には、抑うつ的な患者が冠動脈疾患を呈したとの報告が多くある一方で、冠動脈疾患患者の中に相当数のうつ病患者がいることを報告していたものもある。8つの研究では、うつ病が単独で冠動脈疾患発生の予測因子であるとされた。
Wulsin博士は、検討した研究におけて、評価尺度およびその関連の特異性が極めて多様であることを記している。彼は「冠動脈疾患はうつ病と最も強く関連していた」と強調している。薬用量反応の文献では、10の研究中の9つでうつ病の重症度が増加するに連れて、冠動脈疾患の危険が増加することが認められた。生物学的妥当性と治療反応性の分野にはほとんど知見はなかった。Wulsin博士は、生物学的妥当性の分野におけるいくつかの仮説について検討した。それらには、視床下部―下垂体―副腎系の調節障害、心拍数の変動性の減少、血小板機能障害が含まれていた。
Wulsin博士は、冠動脈疾患の発症と進行に対する危険因子のひとつとしてうつ病の役割を示す知見は増加していると考えている。しかしまだ、その特異的関連、生物学的妥当性、治療反応性などについての知見は不十分なので、この仮説は確立されてはいない。基礎的研究と対照群を用いた臨床研究が必要であるが、彼はうつ病が冠動脈疾患の発症と進行へのひとつの重要な危険因子であることが証明されるであろうと考えている。