痴呆の精神病性障害
Psychosis of dementia
Lon S. Schneider, M.D.
University of Southern California, Los Angeles,

CA, USA, Presenter

痴呆に伴う行動的・心理的症状(BPSD)についての理解は近年の臨床神経科学や行動学、臨床薬理学における進歩を通じて、大きく進んでいる。BPSDを評価し、診断することは経験的な知見に基づいて行われてきたが、これらはさらに新たな研究の方向性へと進展してきている。一方、痴呆のケアや治療が行われる環境の整備が決定的に重要であることが、今日では以前よりはるかに理解されてきている。

このような状況のもとで、痴呆に基づく精神病性障害(幻覚や妄想など)を特異な症候群としてとらえる考えが広く受け入れられるようになってきている。これは攻撃性や焦燥といった、より非特異的な行動障害とは臨床的に明らかに区別される状態像を示している。Schneider博士はまず、疫学的研究を紹介し、アルツハイマー病に伴う精神病性障害の有病率と発症率はともにおおむね20%程度であると述べた。

精神病性障害の臨床的特徴としては、「誰かにものを盗まれる」とか「身の危険を感じる」といった単純な内容の妄想のことが多く、奇妙で複雑な妄想や「一級症状」としての妄想は稀である。アルツハイマー病では血管性痴呆よりも妄想の出現頻度が高いが(それぞれ23%、 8%)、幻覚は両者で同等である(それぞれ13%)。

症候学的には、人物や場所の誤認、あるいは幻視がよくみられることも特徴である。精神病症状を呈する痴呆患者では焦燥や攻撃性を伴うことが多い。痴呆の精神病症状はしばしば寛解し、改善・増悪のパターンを繰り返すが、少なくとも1ヵ月以上は間歇的に持続する。

精神病的特徴をもつアルツハイマー病では、そうでない場合に比較して臨床的に経過の進行が早い可能性がある。また、神経心理学的研究や神経画像研究からは精神病性障害をもつアルツハイマー病では前頭葉/実行機能の障害も指摘されている。痴呆(ことにアルツハイマー病)の精神病性障害を臨床的に的確に診断することで、低用量の非定型抗精神病薬を使用するかどうかといった、妥当な治療方針を決定することが可能である。


レポーター:昭和大学医学部精神医学教室助教授 三村 將
 


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