痴呆の精神病性障害に対する実地的治療戦略
Practical Strategies for the Treatment of Psychoses Due to Dementia
Jacobo E. Mintzer, M.D.
Charleston, SC, USA, Presenter

痴呆による精神病性障害が特異な症候群であると認識されるようになったのはごく最近のことであり、その診断や自然経過、治療への反応性に関する知見が急速に集積されてきている。しかしながら、現時点ではこれら精神病性障害に関する現在の知見をいかに患者のケアに還元するかの検討が重要であろう。

Mintzer博士は痴呆に伴うさまざまな行動障害の側面を検討し、介護者の視点に立って重篤な問題を引き起こす諸問題を抽出した。なかでも、焦燥はあくまでもその行動が不適切で問題となる結果を生じる場合に規定されるべきであると強調し、明らかに焦燥と思われる事態がさまざまな医学的、あるいは状況的要因から生じ得ると述べた。

Mintzer博士は痴呆の行動障害に関する、現時点での治療アルゴリズムを提案した。焦燥的、攻撃的な行動は行動的集中治療室 (BICU) への治療や21日入院・7日入院・半入院など、環境要因を変化させるだけでも改善を期待し得る。

次に、妥当な薬物療法が推奨されるが、これにはコリンエステラーゼ阻害薬・抗精神病・抗うつ薬・抗てんかん薬・抗不安薬などが含まれる。これらの向精神薬の使用法、薬剤選択、用量、治療期間、そして薬物効果を評価する臨床的アプローチなどが議論された。

Mintzer博士は副作用/安全性を監視する実際的な方法や、薬物に耐えられない患者、初期の治療に反応しない患者の管理に関する戦略を強調した。また、特定の患者に対しては、複合的な多剤治療が効果をもつ可能性を示唆し、ドネペジルとリスペリドンの複合投与療法の効果と安全性について予備的な結果を報告した。

痴呆に関する治療の目標と戦略はケアのあり方によっても異なってくる。しかし、Mintzer博士はこれらのケアを行動的・対人的・環境的アプローチにより行うことに加えて、補足的な薬物療法を行うことが精神病症状をもつ痴呆患者に多大な利益をもたらすと結論した。


レポーター:昭和大学医学部精神医学教室助教授 三村 將
 


Copyright 2000-2013 by HESCO International, Ltd. All rights reserved.