非定型抗精神病薬―糖尿病とBergmanの最小モデル分析―
Atypical Antipsychotic Agents: Diabetes and Bergman's Minimal Model Analysis
David C. Henderson, M.D.
Harvard Medical School, Boston, MA,
USA, Presenter

近年、精神分裂病患者における抗精神病薬の使用とグルコース代謝異常(高血糖症の新たな発症、すなわちU型糖尿病)が関連するとの見方が臨床医・研究者の間でコンセンサスとなりつつあるが、その関連の基盤については明らかでない。

Henderson博士は精神分裂病患者において非定型抗精神病薬がグルコース代謝に与える影響を調べた2研究について論じ、現時点での結論をまとめた。

第1の研究で、彼らはクロザピンで治療中の精神分裂病患者の診療録からグルコース代謝に関するベースラインデータを調べた。クロザピン治療開始前から糖尿病と診断されていた患者と診療録にベースラインデータが掲載されていない患者は対象から除外した。対象患者は5年間フォローアップされた。クロザピン投与量、バルプロ酸投与の有無、空腹時血糖および血中脂質濃度プロフィールを6ヵ月おきにフォローした。

Henderson博士らは最初の6ヵ月のフォローアップ後にクロザピン服用中患者82例中30例で糖尿病を発症することを見出した。糖尿病の発症はbody mass index (BMI)や体重増加とは関連しなかったが、中性脂肪レベルの増加と有意な関連を認めた。群全体として約46ヵ月目まで有意な体重増加を認め、その増加率はコレステロールか中性脂肪の変化率と相関していた。中性脂肪レベルの増加は全体として有意であったが、コレステロールの増加は有意に至らなかった。

Bergmanの最小モデルは経静脈的耐糖能試験における頻回の血液採取を通じてグルコース代謝について調べるものである。この方法によってグルコース注射後、血漿グルコースが正常値に回復するまでのインスリン・グルコース動態について正確に把握することが可能となる。このモデルにおけるインスリン感受性とグルコース利用の尺度については妥当性が広く確かめられている。

第2の研究でHenderson博士らはクロザピン、リスペリドン、またはオランザピンを服用中で肥満(BMI > 30 kg/m2を肥満と定義)を認めない精神分裂病患者を対象としてBergman法を用いた測定を行った。抗けいれん剤(つまりバルプロ酸)、ノルゲストロールを含有する経口避妊薬、ステロイド、体重減少を引き起こす薬物、抗炎症剤を服用中の患者は除外した。その他、物質乱用、重要な身体疾患、糖尿病を合併している患者も除外した。

グルコース利用に関しては3種の薬剤のどの2つの組合せにおいても有意な差を認めなかった。インスリン感受性に関してはクロザピン対リスペリドン、オランザピン対リスペリドンにおいて統計学的に有意な差を認めた。クロザピンとオランザピンはいずれもインスリン感受性の有意な低下と関連していた。さらに、予備的な検討の結果、クロザピン服用患者において糖尿病の発生率が増加していた。


レポーター:Elizabeth Coolidge-Stolz, M.D.
日本語翻訳・監修:Department of Psychiatry, Harvard Medical School 笠井清登

 


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