抗精神病薬に関連したグルコース代謝の変化
Antipsychotic-Related Change in Glucose Regulation
John W. Newcomer, M.D.
Washington University School of Medicine, St. Louis,
MO, USA, Presenter

精神分裂病患者においては、U型糖尿病を中心とするグルコース代謝異常が一般人口より高頻度に見られる。定型抗精神病薬は糖尿病を悪化させるとともに、グルコース代謝異常すなわちU型糖尿病の発症の引き金となることが報告されている。新規に開発された非定型抗精神病薬においても同様の報告がなされている。クロザピンやオランザピンを服用中の患者にグルコース代謝異常が新たに発症するとの症例報告が比較的多く、そのうち高頻度で糖尿病性ケトアシドーシスが発生している。その発生率はクロザピン服用患者の報告では72例中10例(14%)、オランザピン服用患者の報告では82例中14例(17%)にのぼる。リスペリドンや クェチアピン服用患者におけるグルコース代謝異常の報告は少なく、前者では1例、後者では2例の報告のみである。こうした薬剤起因性グルコース代謝異常の発生率については、抗精神病薬全般に関しても、特定の薬物に関してもよくわかっていない。

糖尿病性ケトアシドーシスはまれではあるが、上述のような高い罹患率と死亡率を考えると重要な病態である。最適な治療環境(救急治療の早期導入と適切な医学的治療)をもってしてもケトアシドーシスによる死亡率は2%以上にのぼる。精神分裂病患者の場合、医学的治療環境への迅速なアクセスや正確な病歴聴取がままならないことがある。その上糖尿病性ケトアシドーシスの症候の多くは息切れ、腹痛、中枢神経抑制などの非特異的なものであるため、そのことがさらに診断を難しくしている。

Newcomer博士は発表の締めくくりとして、抗精神病薬とグルコース代謝異常の関連について論じた。グルコース調整に対する抗精神病薬の直接の作用と体重の増加が相乗効果となってグルコース代謝異常をもたらすことを指摘した。グルコース代謝に対する薬物の直接の作用と薬物に関連した脂質代謝の変化があいまって心血管疾患のリスクを高める可能性についても追加した。

Newcomer博士は抗精神病薬で治療中の患者に対して高血糖、血中脂質濃度の変化、体重増加のモニタリングをすることを推奨した。また、抗精神病薬に関連した糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを減少させるべく患者・家族・臨床医を教育することが必要であるとも指摘した。最後に博士は、精神科医と内分泌医・プライマリケア医の間の協力体制の重要性を示唆した。


レポーター:Elizabeth Coolidge-Stolz, M.D.
日本語翻訳・監修:Department of Psychiatry, Harvard Medical School 笠井清登

 


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