心室内伝導遅延は心不全患者でしばしばみられる。この遅延は収縮パターンの非同期性を生じることとなる。QRS幅は心臓同期性障害の一つの指標としてよく用いられる。これまでに報告されている6つの再同期療法試験において、QRS幅は同期障害の指標と試験への参加基準として用いられている。
QRS Width as a Marker of
Dyssynchrony
Inclusion Criteria
in Completed CRT Trials
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QRS ms (mean) |
NYHA |
EF |
MUSTIC |
>150 (176) |
III |
<35% |
MUSTIC-AF |
>200 |
III |
<35% |
MIRACLE |
≧130 |
III-IV |
≦35% |
MIRACLE-ICD |
≧120 |
II-IV |
≦35% |
PATH-CHF II |
≧120 |
II-III |
≦30% |
COMPANION |
>120 + PR>150 |
III-IV |
≦35% |
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CHRISTMAS試験(Carvedilol Hibernation Reversible ISchaemia
Trial; MArker of Success)では、虚血性心疾患患者の収縮障害と心不全に対するカルベジロール治療の評価を行った。この試験は、冬眠心筋の有無によって左室駆出率の改善を予測できるかどうかを明らかにするために企画されたものであった。
β遮断薬は心不全患者において同期障害への効果をもつと思われる。Dalle Mule博士らは、CHRISTMAS試験での左室同期性の改善は少なくともカルベジロール効果の一部であると仮定した。
これを証明するために、QRS間隔、左室駆出率、心室内/心室間伝導遅延を解析した。CHRISTMAS試験のうち164人の患者を解析した。これらの全ての患者は、無作為割り付け時とカルベジロールまたはプラセボの投与最終期に放射性核心室撮影検査を受けた。
解析群は81人のカルベジロール群と83人のプラセボ群に分けられた。男性が多く(平均年齢63歳)、NYHAクラスIIが大半であった。80%以上は心筋梗塞の既往があり、ほぼ半数が再灌流療法を受けていた。
Patient Characteristics
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Placebo
(n = 83) |
Carvedilol
(n = 81) |
Age (years) |
63 |
63 |
Males (%) |
92 |
93 |
NYHA class I (%) |
12 |
10 |
NYHA class II (%) |
59 |
63 |
NYHA class III (%) |
29 |
27 |
Mean LVEF (%) |
28 |
30 |
Previous MI (%) |
88 |
84 |
Previous revascularization
(%) |
51 |
47 |
Diuretics (%) |
86 |
74 |
ACE-inhibitors (%) |
88 |
88 |
Hibernators (%) |
64 |
59 |
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心室間同期障害
カルベジロール治療群において、心室間同期障害の程度は試験の前後において有意に改善された。プラセボ群では同期性障害の程度は改善されなかった。試験終了時点での心室間同期障害の程度は、プラセボ群に比較しカルベジロール群では明らかな有意差で低下していた。
心室内同期障害
左心室の心室内同期障害の程度は、カルベジロール治療群において有意に改善されたが、プラセボ群では変わらなかった。試験終了時点での心室内同期障害は、プラセボ群に対してカルベジロール群ではっきり改善していた。

カルベジロール治療を受けた患者の例を示す。左室心尖部の黄色は同期障害領域である(図左)。ベル型ヒストグラムは伝導遅延による。治療後の同期障害領域は減少している(図右)。

対照的に、これはプラセボ治療患者での同期障害領域である。同期障害は試験開始時から試験終了時点まで持続している。

QRS間隔
全群でのQRS間隔は、試験前107ms、試験終了時110ms(p=0.16)で、カルベジロール群とプラセボ群で同様であった。試験前から試験終了時点まで、カルベジロール群、プラセボ群ともにQRS間隔の変化はなかった。試験前および終了時ともに、QRS間隔と心室間/心室内同期障害の程度に有意な関連はみられなかった。これにより、QRS延長がわずかな患者でさえ同期障害が存在することが推測されると、Dalle
Mule博士は述べた。
駆出率の変化
予想通り、左室駆出率はカルベジロール群にて有意に増加したが、プラセボ群では増加しなかった。駆出率と左室内同期障害との関係(図右)は、心室間同期障害との関係(図左)よりも密接であった。

ポンプ機能の改善
左室駆出率の改善がみられた患者の大半は、左室内同期障害の改善もまたみられた(43人中36人、84%)。しかし駆出率改善がみられなかった患者群では左室内同期障害は悪化しているように思われた。

この試験は、心室収縮の同期障害は虚血性心筋症患者においてはありふれたことであることを示している。さらにカルベジロール治療は収縮同期性を改善したことを示した。またカルベジロールの有効性は試験前のQRS間隔に依存しなかった。そして、この同期性の改善は収縮性の改善をもたらすことを示している。
これらの結果に基づいてDalle Mule博士は、心収縮同期性の改善は虚血性心筋症患者でのカルベジロールがもたらす有益性の新しいメカニズムである、と述べた。
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