AHA2003 Conference News

ACE阻害薬ペリンドプリルによりDuchenne型筋ジストロフィー症の小児での左室機能障害の発現・進行を抑制できる
Perindopril Prevents the Onset and Progression of Left Ventricular Dysfunction in Children with Duchenne Muscular Dystrophy
演者顔写真 Henri-Marc Becana, MD
Pitie-Salpetriere Hospital
Paris, France
The French Working Group on Heart Involvement in Myopathies

Duchenne型筋ジストロフィー症(DMD)はX染色体上のジストロフィンに関連した遺伝子の変異による遺伝性の疾患である。DMDの臨床像では心筋障害や骨格筋の進行性の萎縮が認められる。一般的に左室収縮機能障害は発症10年後で認められる。この結果、死亡率は50%と高い。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を左室機能障害が生じる前に用いることで、よい効果が得られることが実験的に示唆されていた。そこで、LVEF(左室駆出率)が正常の若年のDMD患者にACE阻害薬を投与して左室機能障害を抑えることができるかを調べた。

Becana博士らは遺伝的にDMDが確認されていて、EF 55%以上である小児に次の2つの研究を行った。1つは多施設共同の無作為2重盲検試験で、ペリンドプリル2〜4mg/日を3年間投与した。もう1つの研究では薬物をオープンにした上で、引き続きペリンドプリルを24ヵ月間使用した。LVEFは投与前に核医学的方法(心プールシンチグラム)で測定し、以後は定期的(60ヵ月間に6回)に測定した。全例で他の治療は加えなかった。

第1の研究では60例が参加した。うち46例が第2の研究に参加した。平均年齢は11歳で開始時の両群間に臨床的指標、検査指標に差はなかった。

投与前のLVEFはペリンドプリル群で64.6%、プラセボ群で65.4%であった。第1の研究の終了時(24ヵ月後)にはLVEFはペリンドプリル群で59.6%、プラセボ群では64.5%であった(p=0.114)。
 

24ヵ月でプラセボ群の1例でLVEFが45%以下に減少したが、ペリンドプリル群ではLVEFの低下は生じなかった。60ヵ月ではプラセボ群の6例(26%)でLVEFが45%以下に減少したが、ペリンドプリル群では1例のみ(4%)がLVEFの低下を認めた。これは統計学的に有意であった(p=0.0319)。

今回の研究でペリンドプリル群での重篤な副作用は認められなかった。プラセボ群では2例に重篤な障害があった(DIC 1例、発疹と浮腫1例)、軽度の副作用については両群で差はなかった。

以上の結果からDMDの若年齢でのLVEFの低下は一般的な所見であることが示された。これらの患者にペリンドプリル投与を行うことでLVEFの低下を抑えられる。本研究の結果から、ペリンドプリルの早期投与でLVEFの低下を遅らせる可能性が示唆された。

Abstract: 1678


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:浜松労災病院循環器科副部長 田口敦史

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