この数年にわたって、頭蓋外の頸動脈に狭窄を有する患者に対して新しい治療技術を使用することが急速に増加してきている。とりわけ、頸動脈内ステント植え込み時において末梢塞栓を防止する技術は、現在利用可能なものとなっている。
塞栓防止装置を併用した頸動脈内ステント植え込み術の成績に関する実測的で前向きな無作為抽出データの量はますます増加、蓄積されてきている。この増え続ける経験は、医師が頸動脈狭窄に対する最良の治療を選択、決定する時の一助となろう。
最大の疑問は、ステントと内膜切除のどちらの治療にも適している患者において、頸動脈内ステント植え込み術がこれまで標準的治療法であった頸動脈内膜切除術より良い治療法であるかどうかである。Roubin博士によれば、手術による危険性が高いと考えられる種々の患者にとっては頸動脈内ステント植え込み術が理想的な治療法であることを今回のデータは示している。このような患者には、対側の頸動脈が閉塞している患者、短く太い首をもった患者、以前に頸動脈内膜切除術を行っている患者などが含まれる。
今回のAHAにおいて、一人の研究者から、手術による危険性が高いと考えられる患者での頸動脈内ステント植え込み術の適用を支持する無作為抽出データが発表された。それはSAPPHIRE試験(SAPPHIRE:Stenting
and Angioplasty with Protection in Patients at High Risk for
Endarterectomy)から得られたデータであり、この試験は塞栓防止装置を併用した頸動脈内ステント植え込み術と外科的な頸動脈内膜切除術の成績を比較検討した多施設で前向きの臨床試験である。
SAPPHIRE試験において、死亡、心筋梗塞、脳卒中などの有害事象の治療後30日以内の発生率は、頸動脈内膜切除術では頸動脈内ステント植え込み術の2倍高かった。また、頸動脈内ステント植え込み術による有意な成績向上は、症状のある患者においても無症候の患者においても認められた。
Roubin博士によれば、これら良好な成績から、塞栓防止装置を併用した頸動脈内ステント植え込み術は、手術による危険性の高い患者にとっては、少なくとも外科的頸動脈内膜切除術と同等の効果が見込める治療法であることは疑いのないことである。実際のところ、頸動脈内ステント植え込み術の方が優っているかもしれない。
頸動脈内ステント植え込み術は他にもいくつかの利点を有している。例えば、侵襲度は最小限であり、外来手術や一泊入院手術として行える可能性である。もちろん、全身麻酔や鎮静剤投与も不要であるし、患者は治療後2〜4時間以内に歩行可能となる。
また、頸動脈内ステント植え込み術は、手術による危険性が高い患者だけでなく、すべての頸動脈狭窄患者にとって外科的頸動脈内膜切除術と同等の治療法となるかもしれない。塞栓防止装置の併用が頸動脈内ステント植え込み術の成績全体を劇的に変えてしまったことを実測のデータは示唆しているのである。
Roubin博士のグループは現在までに1,200例以上の塞栓防止装置の使用経験をもっており、脳卒中の発生率は年々劇的に改善してきている。塞栓防止装置を併用した頸動脈内ステント植え込み術の最近の465例においては、脳卒中の発生率は1.3%であった。
頸動脈内ステント植え込み術:
塞栓防止装置併用群と非併用群
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併用群
(398例) |
非併用群
(432例) |
小発作 |
0.9% |
2.5% |
大発作 |
0.2% |
0.9% |
致死的発作 |
0.2% |
0.2% |
網膜動脈塞栓 |
1.3% |
0.0% |
脳卒中以外による死亡 |
0.4% |
0.0% |
致死的および非致死的脳卒中 |
1.4% |
3.7% |
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ここに示される連続症例には、危険性の高い患者も危険性の低い患者も含まれる。初期の症例に比し、最近の脳卒中の発生率は有意に低い。したがって、Roubin博士によれば、塞栓防止装置の使用がLenox
Hill病院での患者の管理に大きな違いをもたらしたことは疑いのないところである。
塞栓防止装置の併用による脳卒中発生率低下は、とりわけ高齢の患者において明らかである。Lenox Hill病院において、80歳以上の高齢患者の致死的および非致死的脳卒中の発生率は、塞栓防止装置なしでは約17%であったが、一方塞栓防止装置を併用すれば約2%であった。
もともと危険性の低い患者においてさえ、治療後30日以内の脳卒中発生率はAHAで標準的と認識されている3%から1%以下へとさらに低下した。
全1,200症例に関する多変量解析により、塞栓防止装置の使用が有害事象を減少させる最も有力な予測因子であることが示された。
このようなデータは現在多くの施設や多くの国で再現されており、塞栓防止装置の臨床試験結果を雑誌に発表した研究者もいる。そういった7つの臨床試験において、脳卒中や死亡の発生率は0〜4%の範囲である。これら以外にも米国では現在多くの臨床試験が進行中であり、2,400人以上の患者が組み入れられている。さらには、13,000人の患者についての世界的な登録も始まっている。
レポーター:Andrew
Bowser
日本語翻訳・監修:浜松労災病院循環器科 垣尾匡史
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