Yadav博士の報告は、「血管内膜切除術に対するリスクが高い患者のステント留置と血管形成による保護(SAPPHIRE試験)」が計画された状況から始まった。主な疑問点は、血管内膜切除術後の合併症リスクが高いと考えられる患者にとって、ステント留置による血管形成と塞栓予防が、血管内膜切除術と同等、もしくは、むしろ望ましいか否かということである。Angioplasty
armは、Cordis Precise Nitinol carotid stent、AngioGuard distal
protection deviceを使用した。
SAPPHIRE:ハイリスク患者のプロフィール
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・心不全 class III/IV and/or LVEF<30%
・6週間以内の開胸心臓手術
・24時間以上、4週間以内発症の心筋梗塞
・不安定狭心症(CCS class III/IV)
・重症肺疾患(FEV<1.0)
・反対側の内頸動脈閉塞
・喉頭神経麻痺
・頸部手術、もしくは頸部に対する放射線療法の既往
・頸部血管内膜切除術の既往
・手術困難例(高位、低位病変)
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この試験には723人が登録され、その全員が、超音波検査で80%以上の狭窄を有するものの無症状のもの、もしくは50%以上の狭窄を有し症状を有するものであった。ハイリスクの基準は、心不全、重症慢性閉塞性肺疾患、重症冠動脈疾患、頸部血管内膜切除術の既往、頸部手術の既往、放射線治療の既往のある患者とした。
予想されたことであるが、多くの登録患者が、共存症(comorbidity)のために、血管内膜切除術かインターベンションによる血管形成術のどちらかが非適応であると判断された。409人の患者が外科的手術非適応と判断され、ステント治療群に登録された。7人の患者が、インターベンションによる血管形成術非適応と判断され、外科手術治療群に登録された。残り307人の患者に対しては治療法を無作為に決定し、そのうち、156人がステント留置術を、151人が外科的内膜切除術を受けた。すべての患者に対して、3回のフォローアップポイントを設けた:30日後(死亡、脳卒中、心筋梗塞をエンドポイントとした)、12ヵ月後、3年後。Yadav博士は今回の発表で、30日後のデータを示した。
SAPPHIRE:30日後の結果
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ステント留置
施行群 |
内頸動脈内膜切除術施行群 |
P-value |
主要合併症比率:
死亡、脳卒中、心筋梗塞(Q wave or
non-Q wave) |
5.8% (9/156) |
12.6% (19/151) |
<0.05 |
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30日後までに不利な結果を示した患者の比率は、外科手術非適応のためにステント治療に登録された群で7.8%(32/409)、一方、手術治療が行われた群では14.3%(1/7)であった。
無作為治療群の結果は、おそらく、将来的にこのハイリスク患者に対する治療としてみなされるであろうという観測において、最も重要であろう。無作為に外科的内膜切除術に割り付けられた患者の30日目の不利な結果は12.6%(19/151)であり、ステント留置による血管形成を受けた患者の5.8%(9/156)に比べ明らかに高い頻度となった。
31日目以降の結果に関しては、1年後のフォローアップのデータが待たれるところである。
レポーター:Elizabeth
Coolidge-Stolz, MD
日本語翻訳・監修:京都大学大学院医学研究科循環病態学 樋口博一
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