Schwartz博士は、動脈硬化のマウスモデルを用いて研究を行っているが、まず、マウスとヒトの動脈硬化病変の比較・検討を行った。その結果、いずれの種でも、動脈硬化は可逆的な脂肪線条に始まり、厚い線維性被膜に覆われた複雑なプラークへと進行していった。マウスでは、これら進行したプラークは(Virchowによって最初に記述されたプラークの特徴である)嚢胞状の壊死組織部分(necrotic
core)を例外なく持っている。一旦このnecrotic coreが形成されると、短期間で、およそ80〜90%の病変がshoulderと呼ばれる病変の辺縁部でプラークの破綻とプラーク内出血の所見を呈するようになる。
マクロファージの細胞死が、necrotic coreの形成やshoulder部分でのプラークの破綻とプラーク内出血を促進させる要因として示されたことは、マウスを用いた研究の大きな成果の一つである。病変の中心部でマクロファージの細胞死が生じなければ、necrotic
coreは形成されない。Necrotic coreの形成は破綻に先行するプラークの不安定化をきたす鍵となる現象である。マクロファージの細胞死はshoulder部分でのプラークの破綻にも先行して認められる。
博士は、マクロファージは動脈硬化の進行の過程で重要な役割を持つが、その役割は十分理解されていないことを示した後に、動脈硬化の研究を発展させたといえるマクロファージの細胞死の原因に関する仮説を展開した。その仮説には、アポトーシスを引き起こすFas、酸化LDLと略称される酸化(エステル化)低比重リポ蛋白コレステロール、アポトーシスを特徴づける蛋白分解反応の際に働く蛋白分解酵素の1ファミリーであるカスパーゼ(caspases)の3種類の分子が登場する。
博士は、その具体的な根拠となるデータは示さなかったが、Fasがこの場合の細胞死の最初の引き金となる分子ではないことは確実だと述べた。マクロファージは、単球から分化した後に活性化され、Fas分子そのものを産生するようになることから、直感的にもそう推察される。
酸化LDLコレステロールは、マクロファージを単に細胞死に導くというだけでなく、その作用は非常に強力であり、また、用量依存性を示す。酸化LDLコレステロールによるマクロファージの細胞死に関する分子生物学的研究によって、死んでいく細胞にカスパーゼ活性が存在することが明らかとなった。この現象が本当にアポトーシスに連結した現象であることが、DVDと呼ばれるカスパーゼ阻害薬を用いて示された。
さらに、マウスを用いた別の研究により、酸化LDLカスパーゼ活性 - 細胞死 - へと至る系が進むには、細胞がFas - Fas
ligand複合体を形成する必要があることが示された。最終的に、博士が「アポトーシスにおける正規の細胞死誘導物質(killing
agent)」と呼ぶP17カスパーゼ-3の産生に至るこの経路は、通常、好中球が細胞死に至る過程に酷似している。
このようなマクロファージの細胞死に関する現在進行中および将来の研究によって、動脈硬化の治療の新しい標的が見出されるかもしれない。
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