大動脈弁閉鎖不全症−内科的治療法
Aortic Regurgitation-Medical Therapy
Robert O. Bonow
Northwestern University Medical School
Chicago, IL, USA

理論上、内科的治療により大動脈弁閉鎖不全症の病状の進展が緩和されるであろう。慢性無症候性大動脈弁閉鎖不全症の患者に対してしばしば血管拡張薬が用いられる。しかし、この治療法の安全性と有用性はごく少数の症例の治験に基づくものでしかない。

文献によると、対象はヒドララジン、ニフェジピン、またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬によって治療されたわずか268症例にすぎない。Bonow博士らはアンジオテンシン変換酵素阻害薬を用いているが、治療効果の判定は総計61例の患者で行っている。ニフェジピンでは107例の患者である。これらの治験の観察期間はわずか6ヵ月から2年にすぎない。

しかし、これらの治験の結果は理論的に矛盾のないものとなっている。ニフェジピンに関する代表的な報告によると、1年以上の治療期間において左室拡張末期容積はプラセボ群より減少していた。この結果からは左室容積の減少は壁応力の減少ととらえられる。その結果として左室駆出率が改善した。プラセボ群では残念ながら左室機能が悪化した。

これらの結果より血管拡張薬の有効性が明らかとなった。しかし、こうした効果は望ましいものではない可能性がある。不可逆的な左室機能障害に至る前兆である、症状や左室機能の悪化が見逃されてしまう可能性があるからである。

この疑問点に対する回答となり得る報告が唯一存在する。この治験はニフェジピンと、コントロールとしてジゴキシンの効果を比較したものである。観察期間は5年から6年であった。

ニフェジピンは病状の進展を緩和した。ニフェジピン群ではコントロール群に比べ、症状や左室機能障害の悪化が緩和された。ニフェジピン群で手術を行った症例では、全例において術後経過が良好であり、左室機能が正常化した。

博士は大動脈弁閉鎖不全症における内科的治療の役割について次のように述べた:無症状で駆出率が正常な中等度から重度の大動脈弁閉鎖不全症患者に対しては、内科的治療を考慮してよいと思われる。重症で左室機能が著しく低下した症例は、弁置換術を行うまでの短期間の内科的治療の対象となる。


レポーター:Andrew Bowser
日本語監訳:京都大学医学研究科循環病態学 西尾亮介